<ちいさな独裁者>
ナチスドイツ崩壊前夜の「寓話のような実話」将校に成りすました脱走兵にかしずく人々・・・権力の虚妄と怖さ

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© 2017 -Filmgalerie 451, Alfama Films, Opus Film」
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   1945年4月、ベルリンに250万人のソ連軍が押し寄せようとしていた。崩壊寸前のドイツ軍では軍規違反が横行し、ヘロルトも死に物狂いで部隊を逃げ出した脱走兵だった。憲兵に追われてさまよっているとき、乗り捨てられた車両で徽章の付いた大尉の制服一式を見つける。着たものかどうか迷ったが、ぼろしかまとっておらず、寒さをしのぐにはいただくしかなかった。

   大尉姿になると、周囲の見る目がまったく違った。すれ違う下級兵士は敬礼し、命じると服従する。そして、ヒトラーから命令を受けていると嘘をつき、自分をリーダーとする部隊を組織する。第2次世界大戦が終焉を迎え、「ちいさな独裁者」が誕生するという不条理を、ロベルト・シュヴェンケ監督が描いた。

   あらすじを読んだ時に、イソップ童話的な物語だと感じたが、「ヴィリー・ヘロルト」という実在の人物が起こした実在の事件が基になっていると知って、驚きを禁じ得なかった。

拾った大尉の制服をまとった途端に・・・

   将校の制服を着ただけで脱走兵は権力者となり、ヘロルドも変わっていく。本物の大尉と信じたナチス突撃隊の幹部から脱走兵収容所の指揮官を命じられると、自分もそうであるにもかかわらず、権力に酔い、躊躇うことなく収容者に銃口を向け、大量虐殺するシーンが印象的だ。暴力によって抑圧された人間ほど、暴力で力を誇示しようとするのは真理だ。

   権力を手に入れ、それを誇示し維持するために、平然と人間を射殺するという「芝居」に追い込まれる。この「芝居」が意識的ではなく、無意識であることが最も恐ろしいことであり、「権力」という怪物の本質だろう。

   落ちている服を拾うか拾わないか、大尉に成りすますか、成りすまないか。「選択」を迫られるシーンが多く、この映画のメリハリになっている。

   周囲が独裁者を作り上げていくというのは歴史が証明している。ヒトラーも何人もの「ちいさな独裁者」の頂点として君臨していたのだ。われわれは落ちている服を着ただけの権力者に、「お前は裸の王様」と言えるだろうか。

                           

丸輪太郎

おすすめ度☆☆☆

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