激しい動悸や呼吸困難、発汗や震えが突然襲うパニック障害は、1999年には1万人以下だったが、15年後の2014年には7万人超に増加した。21歳の時に発症したタレントの安西ひろこは、「急に目の前が見えなくなり、倒れて過呼吸みたいに息が吸えなくなりました」と話す。
41歳で襲われた女優の大場久美子は「呼吸をしているのに、息が吸えない苦しさと、心臓発作みたいな動悸が急にきました」という。ストレスやアルコール、たばこの量が多い人ほど症状が悪化しやすく、現代病ともいわれる。日本では100人に1人がかかる身近な病気でもある。
ゲストのお笑いコンビ「中川家」剛もパニック障害を経験している。「息ができない。電車、とくに乗車時間が長い急行や特急には不安で乗れないんです。それまで30分だった大阪―京都間の電車移動が、各停(各駅停車)で乗っては降りて移動したので、5時間かかるようになりました」
パニック障害の診断基準は、理由もなく突然、動悸、呼吸困難、発汗、震え、吐き気など4つ以上の症状が現れる「パニック発作」、発作が起きるのではないかという不安が1カ月以上続く「予期不安」で、電車など交通機関、エレベーターなど逃げられない場所での「広場恐怖症」を併発する。
アメリカでの調査によると、患者は女性が男性の約3倍。先進国は発展途上国に比べ有病率が5倍になるという。
人間関係のストレスや環境変化が引き金
薬剤師として働いていた46歳の女性は、電車の中で激しい発作に襲われてから職場にも居づらくなり、勤め先を何度も変えながら療養中だ。20年以上パニック障害に悩まされている46歳の男性は、20代の頃、ミュージシャンをめざしアメリカに音楽留学していたときに発作に襲われた。帰国して病院に行ったが、当時はパニック障害はあまり知られていなかったため、適切な治療も受けられなかった。30代でやっと診断がつき、適切な治療を受けてから症状が改善し、いま自宅でできる作曲を仕事にしている。
パニック障害になるきっかけは、はっきりとはわかっていないが、肉親との離別、環境の変化、虐待など人間関係のストレスがきっかけになることが多い。パニック障害の対処法は、抗不安薬や抗うつ薬などの薬物療法、恐怖を感じる状況に段階的に身を置くことで「心の免疫力」をつける認知行動療法がある。
千葉大学医学部付属病院認知行動療法センターの清水栄司医師はこう解説する。「かつては認知が広まらず重症化するケースがありましたが、現在は早期発見・治療が進み、症状改善のケースが増えています」
運動やヨガ、マインドフルネスなど、症状を和らげる方法もある。中川剛さんも「2駅しか乗れなかった電車を3駅に増やしたり、2階までしか乗れなかったエレベーターに3階まで乗る。漫才でも相方とのしゃべりを5対5から2対8まで減らしたりするなど、いろいろと試してみました」と体験を話した。
「明石家さんまさんの一言で楽になりました」
周囲からの理解を得にくいということも、患者を苦しめる。油関連企業に勤めていた男性は、医師から周りにパニック障害を公表するよう勧められた。告白すると、職場も取引先も配慮してくれて、症状が改善した。
京都府立医科大学の貝谷久宣・客員教授は「自分が迷惑をかけていないか、迷惑をかけたくないという人が非常に多いですね。気を使われることに気を使うのが、この病気の特徴です」という。
剛さんは芸人の先輩、明石家さんまに話したところ、「額にパニックの『P』マークをつけて、パニックマンになってコントを作れ」と言われ、楽になったという。「周りの人が"大丈夫なのか?"ではなく、普通に笑顔で接してもらうのが大事。理解してもらうことが大事なので、公表したほうがいい」と話した。