18歳で大英帝国の国王に即位、初代インド皇帝としても君臨したヴィクトリア女王の晩年に光を当てる。ときは1887年。囚人の記録係として働くインド人の若者・アブドゥルは、ひょんなことから女王の即位50周年記念式典で金貨を献上する役目を仰せつかった。
アブドゥルのエキゾチックな顔立ちと美丈夫っぷりに目にとめた女王だったが、それ以上に興味をひかれたのは、率直な態度で自国の文化や自分の考えを語るアブドゥルの姿だった。内心は自分を憎んでいながら、おべんちゃらを並べる従者らを心底退屈に思っていた女王は、アブドゥルのフランクな態度をすっかり気に入る。
アブドゥルが語るインドの歴史、建造物、食文化は何もかもが物珍しい。ただ面白いだけでなく、女王が心の孤独を吐露すれば、「人生の意味は奉仕にある」とコーランの教えで返答するなど、これまで触れたことのなかった人生観に、女王はすっかり魅了される。
しまいには、アブドゥルを「人生の師」として、王室の職員に取り立て、家族ともども面倒を見るように手筈を整える。アブドゥルの言葉に感化され、宮殿に新たな部屋をこしらえたり、爵位を与えようとしたりと、どまるところを知らない女王の「えこひいき」に、王室職員、王位継承者たちは苛立ちを募らせた。
初めはイケメン食いと出世欲だったが・・・
予告編では、二人の美しい友情に光が当たっているように感じたが、物語の真の見どころは、「二人が心を通わせるようになるまで」の自然なふるまいにある。序盤では、ただ功名心で女王に取り入っているように見えたアブドゥルが、次第に真に女王のそばに仕えたいと変っていくアリ・ファザルの演技と、若くて容姿端麗な従者をちょっと取り立ててみた女王が、真にアブドゥルに心を寄せていくまでのジュディ・デンチの演技は、どちらも素晴らしい。
どこまでが作為で、どこからが真のサーバントとしての言葉なのか。ぶつかり合いを超え、互いの思いやりを認め合う過程を目にするうちに、二人の信頼関係が本物だと納得する。
ジュディ・デンチ演じるヴィクトリア女王は不遜で傲岸。でもそれは「10億の民に仕えている」という自負と強い責任の裏返しで、どこか一歩引いたような為政者としての線引きが、強くて、孤独で、切なくも尊い。
史実に基づくフィクションとして、身分を超えた感動の友情物語に脚色することもできたろうが、二人の成熟した関係として描いたところに人間らしさを感じる一作でした。
ばんふぅ
おススメ度☆☆☆