フランス政府はカルロス・ゴーン被告(64)に見切りをつけ、ジャンドミニク・スナール氏をルノーの会長に据えた。これをきっかけに、ゴーン後の主導権をめぐるルノーと日産の攻防が始まった。
日産はルノーに15%出資しているだけで議決権はない。これに対し、ルノーは日産に43.3%出資し議決権を持ち、資本関係ではルノーが優位に立っている。日産はこの不平等な関係を改めて、経営の自主性を守りたい考えだが、ルノーに15%出資する筆頭株のフランス政府は、ルノーと日産を経営統合させる意向を日本政府関係者に伝えてきた。
フランスでは高い失業率や貧富の格差拡大で国民の怒りが高まっていて、マクロン大統領は国内に多くの雇用をもたらしてきたルノーと日産の提携関係を一層強化しようとしている。ルメール経済相は「ルノーの新会長の役割は、日産との提携を強化し、電気自動車や自動運転分野に投資できるようにすることです。スナール会長なら必ずやってくれるでしょう」と話している。
スナール会長はどんな人物なのか。世界第2位のタイヤメーカー「ミッシュラン」のCEO(最高経営責任者)を務め、3年前には、協調性を重視する経営者と評価されて最優秀経営者として表彰された。ミッシュラン労組のジャンクリストフ・ラウルド代表は、「従業員への配慮を示しながら、株主からの要望を巧みに実現してきたとても手ごわい交渉人です」と話す。
保釈で始まるゴーンの逆襲
日産は4月中旬に臨時株主総会を開き、スナール氏を取締役に選任するが、ゴーンの後任を含む新経営体制につては、6月下旬の定時株主総会まで先送りする方針で、この間に日産優位の体制をじっくり練る戦略のようだ。
武田真一キャスターは日産とルノーを長年ウオッチしてきた中西孝樹氏(ナカニシ自動車産業リサーチ代表)に、「空席の会長をめぐるルノーとの駆け引きはどうなりそうですか」と聞く。
「日産として譲れない部分もあるでしょうが、アライアンス(3社連合)のトップである会長ポストは、スナール氏が座る可能性が高いですね。それだけでなく、日産の会長あるいは西川社長に次ぐCEOのポジションも43.3%の資本の論理に立って要求してくる可能性も高いと思います」
日産は経営統合は拒否する姿勢を示しており、ルノー側が強硬策に出た場合、資本関係を見直すこともあり得そうだ。中西氏はこんな指摘もしている。「ゴーン被告がいつ保釈されるか。日産組織の刺しどころを知っており、反撃が予想されます。
そもそも、これだけの独裁的な疑惑を1人でできるというふうには思いません。独裁というのは1人で成り立つものではない。やはり組織で支えていた部分があると。そういった意味においては、日産の経営、あるいは取締役会、執行役を含めて、いわゆる大きな疑惑があると、私は感じています」
日産にとって厳しい状況が続きそうだ。
*NHKクローズアップ現代+(2019年1月30日放送「"ゴーン・ショック"第2幕 どうなる日産の今後」)