カワウソ人気で水族館には長蛇の列、カワウソカフェも登場した。ブームに乗って、コツメカワウソは1匹90万円~150万円で取り引きされている。インドネシアやタイなど東南アジアが原産で、許可なしの取り引きは多くの国で禁止だが、密輸しようとした日本人の逮捕がこの2年間で7件起きている。20代女子大生、40代DJ、50代会社経営者らだ。なぜ素人が密輸に手を染めるのか。
2017年10月、10匹の赤ちゃんカワウソを密輸しようとした女子大生がタイの警察に連行された。空港野生動物検査所のパカポーン前主任は「スーツケースの中の竹籠に小さなカワウソを10匹入れて密輸しようとした」と話す。女子大生は「かわいいからペットにするために市場で買った」と説明したという。
タイでは1匹3万円が日本では60万円
バンコクのペット市場で取材すると、店員たちは「カワウソはいない」「違法なものはない」と言うが、カメラを隠して接触すると密売人らしき女性を紹介された。「何匹欲しいの。1匹3万円だよ。3万円で買っても、日本で転売すると60万円になるらしい。密輸する価値があるわ」と言い、買い付け屋の名前を明かしながら、「運び屋には10匹で10万円払うと言っていた」と話す。
動物取扱業者の白輪剛史氏は、「密輸の背後には黒幕がいるはずだが、彼ら組織的犯罪グループと素人の接点がわからない」と語る。
鎌倉千秋キャスター「赤ちゃんカワウソにミルクをおなかいっぱい飲ませて眠らせ、靴下に入れて衣装と一緒にスーツケースに入れ、預け入れ荷物として運ぶようです。密輸の過程で死んでしまうカワウソもいます」
ゲストのノンフィクション作家・石井光太氏は「カワウソの密輸は残酷です。川にあるカワウソの巣には親と5~7匹の子どもがいるのですが、まず親を殺してしまう。噛まれたりひっかかれたりするのが面倒だからです。目の開いていないような赤ちゃんカワウソを全部持ってきてしまう。業者によると、スーツケースで運ぶような方法では半分生きていればいいほうだということです」と密輸の実態を明かす。
タイ政府の許可を得て輸入する制度はあるが、実際には許可される例は少なく、2000年以降にタイから日本に正規に輸入されたカワウソは0匹である。インドネシアも一般の人には許可を出さないうえ、タイよりも相場が何倍も高い。 ただ、日本ではカワウソの飼育は認められており、販売する際にもどこから持ち込まれたかを証明する義務がない。これについてWWF(世界自然保護基金)ジャパンの東梅貞義自然保護室長は、日本は"恐ろしく無規制な状態"で、カワウソ・ロンダリングの国と非難されているという。
密輸の黒幕はオレオレ詐欺組織
インドネシアから正規に輸入したカワウソ16匹と触れ合えるカワウソカフェに、半年前、1本の電話が入った。カワウソを3匹を買わないかという若い男性からのだった。カフェのオーナー・長安良明さんは密輸の売り込みだと感づき、警視庁に通報した。
3日後に訪ねてきた男を逮捕すると、男の携帯電話に残された電話番号が、過去にオレオレ詐欺のグループが使用した番号と一致した。男は裁判で"黒幕"の存在を認めたが、「怖くて言えません」と最後まで明かさなかった。
警視庁生活環境課の福原秀一警部は、「特殊詐欺や金密輸などを行う"やくざ"の組織が介在しているのは間違いない」と話す。
ノンフィクション作家の石井光太氏は「黒幕には反社会的存在か、それに類するグループがあるのは間違いないです。一般の人が運び屋をするのは、麻薬の密輸と同じ構図で、ネットでやくざにうまくリクルートされてしまっているからでしょう」と話す。
警視庁の福原警部も「銃器や薬物とは違い、動物密輸は罪悪感のなさから、ついアルバイト感覚で乗ってしまう」と、心理的ハードルの低さを原因に挙げる。
石井氏は「そうまでしてカワウソを手に入れたいと思うのは、社会に居場所がない"非社会"の人が増えているから。彼らはSNSで"いいね"をしてもらうことで自己肯定感を得られるんです。かわいい動物だと"いいね"は増えますから、お金がないのに100万円も出して買うわけです。やくざはそこに目をつけてビジネスにしている」と分析した。
武田真一キャスターは「かわいいカワウソが、一般の人が闇社会とつながる接点になってしまっていることを受け止めないといけないですね」と指摘した。
*NHKクローズアップ現代+(2019年1月29日放送「追跡!カワウソ密輸事件 黒幕は誰だ?」)