大相撲の横綱稀勢の里は引退し、横綱としては36勝36敗97休と最低の成績だったが、「私の土俵人生において、一片の悔いもありません」と言い切った。
記者会見でけがについて聞かれ、「一生懸命やってきました」と言葉を振り絞った後、顔を紅潮させ、しばし無言。右目から涙がこぼれ落ちた。「徐々に良くなってきましたが、けがをする前の自分には戻れなかったです」と語った。
稀勢の里が18歳の時から親交があり、けがに苦しむ様子も2年間見てきた医師の増渕和男さんは、「彼が思っていた以上に重傷でした」と話した。筋肉の断裂は傷が深いうえに幅も広く、力を100出しているつもりでいても、60とか70しか伝わらない状態だったという。
「でも、彼は弁解をしない人ですから。稽古をして何とか治して、自分で補っていこうという気持ちだったと思います。痛みはないかと聞いても、痛みはありませんと言って弱音は吐かなかった」という。今場所の初日の夜にも稀勢の里と会ったが、「いつも通りでした。『きょうは負けたけど、あすは頑張ります』と言っていました」
トレーナー「けがの後はものすごく弱くなりました」
昨年(2017年)2月からけがの治療にあたってきたトレーナーの岩崎正義さんによると、筋力検査で以前は岩崎さんが飛ばされるぐらい強かったが、「けがの後はものすごく弱くなりました。痛みはなくても力が入らないようでした。でも、『まだまだ諦めたくない』と言っていました。左が弱くなっている分、右腕を鍛えていろいろ稽古をしていました」と語った。
下川美奈(日本テレビ解説委員)「一生懸命とか、努力とかを逃げないという言葉が、これだけ説得力をもって伝わってくる人はいませんね。努力してもすべてが報われるわけじゃないんだけど、努力することでみんなに愛されて尊敬される横綱でした」