3年前(2016年)の1月15日、長野県内のスキー場に向かったバスが道路脇に転落して、15人の若い命が失われた。「軽井沢ツアーバス事故」である。事件の背景にはバス会社のずさんな運行と安全軽視があった。
この事故をきっかけに、国は85項目にわたる対策を実施して、違反したときの処分や罰則を強化したが、いまでも死傷者が出る重大事故は年間300件以上起きている。表向きは法令を守り、安全対策を行っているように見せかけながら、実際は不正を続けるバス会社が少なくないからだ。
「クローズアップ現代+」の取材で、行政処分を逃れる抜け道があることや、安全確保のための必要最低限の費用を盛り込んだ「下限運賃」の制度も形骸化している実態が明らかになった。
社名や経営者変えて行政処分逃れ
禁止されている日雇いで働いている関西の貸し切りバス運転手は、契約書のないままバスを運転し、1日13時間までと決められている労働時間を超える18時間勤務の日もある。安全確認で義務付けられている運行指示書が渡されないこともあるという。
国は罰則を強化するとともにチェック機能の強化を打ち出し、民間機関による立ち入り調査を実施している。重大な違反があると国の監査が入り、行政処分につなげる仕組みだが、事前に通報するため、違法を隠す不正が横行している。
不正が見つかっても、行政処分を逃れる方法もある。国の対策づくりにかかわってきた名古屋大学の加藤博和教授は、規制の限界を感じていると嘆く。どういうことか。重大な違反が見つかっても、処分までに数カ月かかるため、その間に別会社を立ち上げ、親族に経営させ、車体の色やナンバーを変えたら、もう同じ会社かわからなくなり処分を出せないのだ。
NHKの調査によると、この3年間で行政処分や警告を受けたバス会社は全国で約1000社。その半数が「点呼」違反で、運転手の健康確認を怠っていた。点呼を厳しくすると、運転できないドライバーが現れ、会社が困ってしまうからだ。
石井啓一国土交通相は1月15日、「監査逃れなどが行われないように、巡回指導を着実に行うことによって取り組んでいきたい」と述べたが、全国に約4000社あるバス会社をすべて監査するのは困難だ。交通政策が専門の首都大学東京の戸崎肇・特任教授は「完全に監査するためには相当な人数が必要になります。覆面調査などの工夫も必要です」と話した。