週刊文春の写真家・広河隆一氏のセクハラ問題に触れる前に、講談社が1988 年に創刊した月刊誌「DAYS JAPAN」事件について書いてみたい。
大版でカラーページをふんだんに使ったビジュアルな雑誌である。創刊号には作家の広瀬隆氏と広河隆一氏による「四番目の恐怖」が掲載された。チェルノブイリ、スリーマイル島、ウィンズケール、青森県六ヶ所村での「放射能汚染」の危険を伝えている(Wikipediaより)。広河氏はその後も「地球の現場を行く」を連載している。
創刊号は広告が1億円入ったと聞いた。当時としては大変な額である。出だしはよかったが、だんだん広瀬隆の個人雑誌の風を呈してきて(反原発的論調)、部数は伸び悩んでいたと記憶している。ある号で、タレントや文化人たちの講演料を掲載した。だが、歌手のアグネス・チャンからクレームがついた。高すぎるというのだ(もちろんタダではない)。
当時、アグネスは講談社と関わりのある仕事をしていて、面識のある社長に直接談じ込んだと聞いている。社長のほうから、この件を早く処理しなさいという声がかかったのだろう、編集長はもちろん、担当の専務も動き、謝罪することになった。その謝罪の仕方が過剰だった。私の記憶では、誌面で大々的にお詫びをしただけではなく、新聞広告にも詫び文をかなりのスペースで載せたと思う。
私を含めた部外の人間からは、書いた金額がやや多かっただけで、なぜここまで謝るのかという声が上がった。社長も、これほどのお詫びを求めたのではないと、編集部のやり方に異を唱えたのである。結局、今度は社長の一言で雑誌は休刊、専務は責任を取って辞任、編集長は退社、編集部は解散となってしまった。わずか2年足らずで「DAYS JAPAN」は消えてしまうのである。
だいぶ後になって、広河氏が「DAYS JAPAN」という雑誌名を買い取り、フォトジャーナリズム雑誌として復刊するという話を聞いた。編集部へ行って、旧知の彼と話をした。広河氏はこの雑誌名に大変な愛着があり、何とか復刊したいと考えていたという。わずかな賛助金を出し、できることがあれば協力しようと申し出たように思う。
1年ばかり私のもとに雑誌を送ってくれた。こうした雑誌を出し続けるのは大変だろうと、陰ながら応援していたのだが。
広河氏はパレスチナ人の苦難やチェルノブイリ原発事故、薬害エイズ事件で、被害者側に立って写真を撮り、原稿を書き続けてきた。土門拳賞など数々の賞を受賞している。3・11以降の福島の子どもたちの保養事業にも力を入れていたそうだ。
彼も75歳。こんな形で晩節を汚すことになるとは思わなかった。
もはやフォトジャーナリストを続けていく資格なし・・・それにしても10年以上前のことがなぜいま?
週刊文春で、田村栄治という元朝日新聞のライターが広河の「性暴力」を告発したのである。彼は「DAYS JAPAN」で十数年間、毎月1回、編集を手伝ってきたという。
内容が丸ごと事実ならば、彼はフォトジャーナリストを続けていく資格はない。被害女性は「DAYS JAPAN」で仕事をしたい、広河という高名な写真家に教えてもらいたいと、彼を慕って来た若い女性たちである。それをいいことに、自分の性欲を満たすために彼女たちを押し倒し、SEXしたというのである。
11年前の杏子さん(仮名)のケース。都内の大学生だった彼女はフォトジャーナリスト志望で、「DAYS JAPAN」でデータ整理などのアルバイトを始めた。1、2か月後、「君は写真が下手だから、教えてあげよう」と広河にいわれた。指定された京王プラザホテルへ行くと、電話で「部屋にあがってきて」と指示される。
彼女は「人権を大事にする偉大なジャーナリスト」だと広河を信頼していたという。だが、部屋に入るなりベッドへ連れていかれ、恐怖で何もいえない、抗えないままSEXされてしまったというのである。
彼女はこのまま夢を諦めてはだめ、フォトジャーナリズムを学べるのはここだけだと仕事を続けた。すると、また呼び出され、歌舞伎町のホテルへ連れこまれてしまう。編集部で2人きりになった時、背後から抱かれ、トイレに連れ込まれそうになったこともあったそうだ。それを機に彼女は辞めた。
同じように、ジャーナリストを目指してやってくる女性たちを次々に毒牙にかけていたようである。こうしたセクハラがもとで、身体が変調をきたし、うつになってしまった女性もいる。繰り返し求めに応じてSEXしたのだから、性暴力とはいえないのではないかという疑問に、齋藤梓・目白大専任講師はこういっている。当事者に上下関係がある場合、上位の人の誘いを下位の人間が断ることは、その世界での生活を失うなどのリスクがあり、難しい。
しかし、一度関係を持つと、断ることがさらに難しくなる。性暴力被害者は、自分を責める気持ちが強く、PTSDや抑うつ感が長期にわたって続く傾向があるから、人生への影響が非常に深刻な被害だというのである。
共通するのは、SEXを強要した彼女たちのヌードを写真に撮っていたことだった。田村氏は、そうした女性がほかにも4人いるという。広河氏は田村氏の質問に、出入りしていた女性たちと性的関係を持ったことは「いろんな形である」と認めた。しかし、望まない人間を無理やりホテルに連れてはいかないと主張する。
広河という著名なフォトジャーナリストであるという立場を利用して性行為やヌード撮影をしたのではないか、という問いには、「(女性たちは)僕に魅力を感じたり憧れたりしたのであって、僕は職を利用したつもりはない」
女性たちは傷ついているという問いには、「僕のせいじゃないでしょ」という。人間の尊厳をカメラに写し取ってきたジャーナリストが、彼女たちへの一片の謝罪の言葉もない。残念というより、やりきれない思いでいっぱいになる。
彼はその後、「私は、その当時、取材に応じられた方々の気持ちに気がつくことができず、傷つけたという認識に欠けていました。私の向き合い方が不実であったため、このように傷つけることになった方々に対して、心からお詫(わ)びいたします」というコメントを発表したが、もはや手遅れである。
週刊文春が追及しているいま一人のハレンチ人間は、女癖の悪さで名高いといわれる福井照・自民党衆議院議員(65)である。この間まで内閣特命担当大臣をやっていた御仁だ。不倫の相手は外務省国際協力局地球規模課題総括課の岡垣さとみだという。ともに既婚者だから、いわゆるW不倫である。
週刊文春に目撃されたのは12月22日(2018年)。広島・福山駅でハイヤーに乗り、瀬戸内海に停泊しているラグジュアリー客船に乗り込み、宮島沖・大三島沖錨泊3日間、1人50万円から100万円の極上の旅を満喫したという。
男も男だが、こういう"先生"と不倫しようという女の気持ちが分からない。福井議員の奥さんは、こうしたことに諦めきっているのか、週刊文春から伝えられても、「そうですか」と呟いただけだったそうだ。女のほうの亭主は、この記事を読んで何と思ったのだろう。