乳がん患者が40年間で4倍に増えた。今や女性の11人に1人がかかると言われる。一方、最新医療の進歩で早期発見、早期治療をすれば命を落とすことは減った。かつては抗がん剤の影響で子供が産めなくなる心配もあったが、それを回避する新技術も開発されつつある。乗り切ってきた家族に取材した。
8年前に31歳で左乳房を摘出した御舩(みふね)美絵さんは今、子供を授かっている。乳がんと診断された時は「自分の命を守ることと子供を持つ可能性のどちらを選択するか悩みました」と振り返る。そこで医師に紹介されたのが遺伝子解析という方法だった。
受験生の娘に伝えると、発奮して医師を目指して猛勉強
摘出したがん組織を解析装置にかけると再発リスクがわかる。御舩さんは6%と出た。この低い確率ならばと、抗がん剤を使わない治療を選び、妊娠することができた。
遺伝子解析は全国約200の医療機関で扱っているが、研究途上で健康保険が適用されないため、20万円から50万円かかる。御舩さんと違って「再発リスクが高い」と判定されることもある。
それでも、聖路加国際病院の山内英子医師は「むしろ抗がん剤が効きやすいと考えることができます。データとしてわかったことで、自分らしく乗り越えられた人は数多い」という。
がんと診断されたら、家族にどう話せばいいのかという問題がすぐに起きる。術後の経過観察期間がつらいとの声も患者や家族からあがる。他のがんは術後5年を経れば再発はぐんと減るが、乳がんの再発は40%が5年目以降だ。それだけ家族にとっても長い闘いとなる。
受験生の娘にショックを与えたくなくて、なかなか話せなかったが、思い切って伝えると、娘が発奮して医師をめざして勉強するようになったケースもあるそうだ。山内医師は「子の力を信じて伝えることが大切です」と強調する。