個人向け不動産投資をめぐる数々の不正融資が明るみに出たスルガ銀行に、金融庁は6か月間の一部業務停止命令と業務改善命令を出した。調査した第三者委員会の報告書によると、「不正がまったくないケースは全体の1%あったかどうか」のデタラメぶりだったという。
なかでも営業部門から上がってきたシェアハウスなどの不動産融資では、99%が審査機能不全の状態だった。しかし、1年前まで金融庁は不正を見抜くことができず、5年連続で過去最高益を更新していたことから、「地銀の優等生」と評価していた。
預金残高水増しして内部審査すり抜け
不正はどのようにして行われていたのか。大手IT企業に勤めるサラリーマンの男性は、「将来のために」とスルガ銀行から1億6000万円の融資を受け、今年4月(2018年)にシェアハウスのオーナーになった。きっかけは昨年3月、東京・銀座の不動産販売業者からシェアハウス購入を持ち掛けられたことだった。
「自己資金ゼロでも全額銀行から融資が受けられる」「空室がどれだけ出ても毎月90万円の家賃収入を保証するので、銀行に返済しても15万円が手元に残る」という触れ込みだった。ただ、男性はこの段階では「自分がこれだけの金額を借りられるとは思わなかったし、怪しいなとも思った」という。
半信半疑の男性を見透かすように、不動産販売業者が連れてきたのがスルガ銀行の行員だった。行員は「この物件に関してはちゃんと融資をすることができます。物件の入居率は今後、私たちが定期的に見ていくので大丈夫」と話したという。
不正のカラクリはこうだ。スルガ銀行には顧客の返済能力を確かめるために、物件価格の1割、1億円なら1000万円の自己資金があるか確認するルールがあった。しかし、営業部門はそのルールを無視して、自己資金が足りない場合は、不動産販売業者に銀行預金の通帳のコピーを改ざんするよう指示したり、改ざんを黙認していた。実際に男性の通帳の残高は70万6153円だったが、2222万9961円に改ざんされていた。
男性は「これは大丈夫だ」と信用し、自己資金がほとんどないにもかかわらず、スルガ銀行から1億6000万円の融資を受けてシェアハウスのオーナーになった。
シェアハウスは広さ4畳の部屋が15ある。現在9つが空室のままで、6室の家賃収入は合わせて月15万円あまり。これに対し、銀行への返済額は月64万円。毎月49万円の赤字が出ている。