家族任せの障害者支援
愛知県豊田市の将裕さん(32)は自動車関連会社に勤め、知的障害と自閉症で会話がほとんどできない弟(27)と2人暮らしだ。弟は部屋の隅でうずくまったまま動かない。将裕さんは「施設に預けて、自分の人生を取り戻したい。幸せとか、考えたこともない」とつぶやく。
母が家を出て、父は6年前に病死し、兄弟2人だけが残された。弟はその頃から暴れたり、外で問題を起こして警察に保護されたりの繰り返しとなった。2年前、豊田市に相談したが、「調査に行く」といったまま連絡はなかった。ところが、NHKが取材をした途端、担当者から電話が入った。
市に出向くと、担当者は将裕さんに謝罪したが、弟に関しては「地域で問題なく暮らしている」「施設入所も望んでいない」と、とくに何をしてくれるでもなかった。
その後、将裕さんは睡眠不足などからうつ病と診断され入院した。すると、市は弟を施設に入所させた。共倒れの事態となって初めて動いたのだった。国は2012年に成立した障害者総合支援法で、障害者支援を、従来の施設への収容から地域社会で支える方向へ舵を切った。3本柱は「ショートステイ」「デイサービス」「訪問介護」だ。しかし、専門的人材不足でサービスが行き届いているとはいい難い。
精神科医で立教大教授の香山リカさんは「福祉、教育、医療、警察という縦割りをなくして、総合的に考えないといけない。人材の育成、NPOとの連携なども含む、包括的な仕組みが必要です」という。「本人と、支える人たちを支えるケア。みんなの問題で、他人事ではないという視点が何より大事になります」
三田市の監禁されていた長男は、施設で24時間ケアを受けるようになった。父親が逮捕、有罪判決を受けたからだ。豊田市の兄弟も、兄が倒れて初めて行政が動いた。障害者を抱える7000家族への調査(昨年)では、「警察、病院、行政をたらい回し」というのがあった。どれも、あるべき姿とは程遠い。
*NHKクローズアップ現代+(2018年9月20日放送「"息子を檻(おり)に監禁" 父の独白」)