プロレスが様変わりしたという。後楽園ホールを埋めるのは、今や「プ女子」と呼ばれる若い女性や家族連れで、新日本プロレスの売り上げは7年前の3倍、40億円に迫るらしい。
日本のプロレスは力道山以来、60年以上になる。流血や遺恨試合に興奮したのは男性ファンだったが、10年ほど前から「暗黒の時代」に入る。他のイベントに客を奪われたのだ。30年になるベテランの獣神サンダー・ライガーは、「プロレスの火が消えかけた。それを引っ張ったのがあいつだ。あいつだけは折れなかった。今もそうだ」という。
あいつとは棚橋弘至。どんなに客が少なくてもイベントに顔を出し、力いっぱいのファイトを見せた。プロレス復活にかける姿に共感が広がった。とりわけ女性の心を捉えた。
転機は6年前、人気アニメのカードゲーム会社「ブシロード」が新日本プロレスを系列会社にした。オーナーの木谷高明さんは「人が感動するのは、キャラクターとストーリー。プロレスを通して生き様を見せている選手を、身近なものにしたかったんです」という。
山手線に車体広告を打った。プロレスとは無縁だった女性誌や文芸誌で、レスラーが人生を語った。プロレスのイメージが変わった。木谷さんは「プロレスには人々の人生に寄り添う力があります。レスラーの表現力自体が時代に求められているんです。時代が不安だから、ヒーローを求めている」という。
棚橋弘至さんに元気をもらった
アニメーターの岡林あいさんは5年前、電車の広告を見た。退職して、明日が見えない時だった。姉を誘って会場へ足を運んだ。そこで「棚橋さんに元気をもらった」という。「リングに立っているだけで、誰かを救っている」と。 岡林さんはいま再び鉛筆を握っている。棚橋さんは「嬉しいですね」という。「応援してもらって、力をもらって、また喜んでもらって。ファンの方とともに走って、エネルギーの交換をしてる。会場はパワースポットなんです」
と笑顔だ。
元AKBのタレント倉持明日香は中学時代から「プ女子」だった。「非日常を求めて会場へ行くんだけど、その空気感がリアルではまるんです。戦っている生身の背中がかっこいい」
武田真一キャスター「腹筋じゃなくて?」と大笑いする。
新日本プロレスのレスラーは外国人を含む60人以上。棚橋が牽引する「本体」、対抗するヒールの「ケイオス」、チャンピオンのケニー・オメガの軍団など5つのグループがある。昨年9月(2017年)からの1年に159大会。7月からトップ選手のリーグ戦「G1クライマックス」があり、勝者はチャンピオンへの挑戦権を得る。
お笑い芸人でコラムニストのプチ鹿島は「非日常はキーワードです。昔の非日常は日常絶対にいない人たちだった。今は僕らと同じ世界で頑張ってる人たちだから共感できる」という。
動画で発信して海外展開
新日本プロレスの新社長はオランダ出身のハロルド・ジョージ・メイさん。タカラ・トミーの社長から、世界への仕掛け人として招かれた。「新日本プロレスを次のレベルに進める」と語る。手始めが有料配信の動画だ。会員10万人のうち4割が海外会員である。
その効果は、今月7日にサンフランシスコで打った興行でさっそく出た。イベントは6000人を動員して大成功だったのだが、棚橋は「反応がすごかった。みんな動画で選手を知ってるんですよ。それを見に会場に来ていた」
メイ社長は「日本のプロレスは試合内容が充実しています。見れば良さは伝わる」と、今後も海外イベントを展開するという。動画を見て、大阪まで来たイギリス人もいた。「独特の魅力があります。漫画やアニメのように、ストーリーとキャラクターが見事。こういうのは西欧にはない」といっていた。
*NHKクローズアップ現代+(2017年7月19日放送「プロレス人気復活!"過去最高"の秘密」)