日本大アメフット部の選手による危険タックを、宮川泰介選手は「クォータバック(QB)を潰せと言われた」「けがをさせる意味ととった」と話し、内田正人前監督は「私の指示ではない」と否定し、井上奨コーチも「けがをさせろとはいっていない」と弁明に明け暮れた。どちらが本当なのか。
会見を見たOBは「選手に責任を押し付けた、保身のための責任逃れだ」と、前監督の独特の指導法を語った。選手を干す(練習・試合に出さない)のだ。真面目な選手ほど干されると不安になって、もっと目立とう、頑張ろうとして言いなりになる。これが10年以上も前から常套手段だったというのだ。
別のOBは「絶対服従はコーチにも及んだ」と言う。コーチの半数は日大の職員だ。常務理事でもある内田氏は人事権を持つ。家族・子供のいるコーチは、従わざるをえない。選手の目の前でコーチを殴ることもあった。逆らえないコーチが、逆らえない選手を作るという構図だ。
内田氏はもともと選手だった。コーチを経て15年前に監督に就任し、リーグ優勝は5回あるが、日本一になったのは昨年(2017年)が初めてだった。日大としては27年ぶりだった。体育会のトップとなって、推薦枠、特待生枠の決定から、選手の就職にまで絶大な力を持つ。
さらに、常務理事として系列学校・病院も含めた職員7600人の人事権を持つ。2600億円の大学予算にも関わる。日大グループの実質ナンバー2という実力者だ。
東京大アメフット部ヘッドコーチの森清之さんは「70年代、80年代の日大はスパルタ式の猛練習で無敵を誇り、名門になりました。その後、時代も学生も変わり、再建を託されたのが内田監督でした。正解はないのですが、いまの学生に合った方法を試行錯誤しないといけない」という。
スポーツも科学と対話の時代
早稲田大スポーツ科学部の友添秀則教授も「日本のスポーツ集団特有の病理があります。朝から晩までの集団生活の中で、自分たちだけの規範を持ち、監督を頂点とする上下関係は、言葉のない世界で、命令が絶対です。これではダメですよ。今世界では、科学的知見と対話が流れになっています」と語る。
そして、今回の事件はアメフトそのものに影を落とすのではないか。すでに高校のアメフトの選手の間に動揺が広がっているという。森さんは「あの映像で初めてアメフットを見た親は、子供にさせたいとは思わないでしょう。少子化の中で、アメフトの存続に関わるのではないかと感ずる」と言う。
友添教授は「他の競技でもパワハラはあります。指導者は自分の競技の中だけにとどまらず、新しい指導法を作らないといけない。それにはオープンにすることです。密室だと、手がつけられない」と指摘する。
アメリカでは「大学体育協会」が監視・指導
アメリカではNCAA(全米大学体育協会)という横断的な組織があり、1100校が加盟して、クラブ運営の監視、共通の選手育成プログラム、指導者の教育などを行っている。アメフトの死亡事故をきっかけに作られたといい、運営の透明化が大きな意味を持つ。
森コーチは「学生だった30年前なら(こうした組織には)反対したでしょう。学校やお上に口を出してもらいたくないから。しかし、いまはそうした構造的な改革がスポーツ改革につながると思っています」と話す。
友添教授はさらに踏み込んだ。「日本人のスポーツ観を変えないといけないと思います。勝ち負けのゼロサムをやめて、相手をパートナーとして、より高いパフォーマンスにすべきです」
番組は触れなかったが、内田前監督は問題の試合の後、「関西学院だって汚い」と発言しいている。おあいこってことか。改めて、27年間勝てなかった日大がなぜ昨年勝ったのかが気になる。対戦したチームのQBはみな無事だったか。
*NHKクローズアップ現代+(2018年5月24日放送「『つぶせ』危険タックルはなぜ?~日大アメフトOBたちの証言~」)