東京都大田区の町工場が作った「下町ボブスレー」は、平昌(ピョンチャン)五輪でジャマイカチームが使用するはずだったが、直前になって、ジャマイカが「使わない」と通告してきた。選手たちが「遅い」と言い出したのだという。善意と町おこしの産物が、宙に浮きかねない事態になっている。
「遅い。われわれのそりではない」
下町ボブスレーネットワーク・プロジェクト推進委員会が昨日(2018年2月5日)、会見して、「われわれのソリではないと言っている」「法的なことを話さないといけない段階にきている。悲しい。なぜ約束が簡単にひっくり返されるのか」と、怒りと困惑を語った。
ジャマイカの女子ボブスレー・チームはすでに平昌入りしており、インスタグラムに楽しげな写真も載っていた。しかし、競技で使うソリは「下町ボブスレー」ではなかった。
ジャマイカが「下町ボブスレー」を使用すると発表したのは1年4か月前。緑と黄色のジャマイカカラーの新型機の前で、代表選手のジャズミン・フェンレイターさんは「下町ボブスレーに参加した人たちの技術力は最高です」と語っていたのだった。
プロジェクトがスタートしたのは7年前。100を超える大田区の町工場が、それぞれの専門技術を生かして作ったパーツを無償で提供して、ボブスレーのソリを作った。時速140kmを超え、氷上のF1とも呼ばれるボブスレー。ソリの開発は、フェラーリやBMWなども加わる熾烈なもの。これに、日本の「匠」が挑戦したのだった。
そして発足後1年の2012年12月、初出場の全日本ボブスレー選手権で見事優勝し、技術の確かさを証明した。翌年2月、ソチ五輪の日本代表の使用を目指して、開発に携わることになった。安倍首相も開発現場を訪れて、PRに一役買ったこともあった。
ところが、ソチ五輪の直前、日本代表チームの高い要求に応えられなかったことで、使用するソリは「下町」にはならなかった。しかし、チームは世界に話を持ちかけ、2016年ジャマイカ女子代表との契約ができた。安倍首相も「日本のモノづくりの力を示して」と言っていたのだったが......。