女性のセクハラ被害を告発する「#MeToo」(私も)の運動が加速している。米国では差別発言が目立つトランプ大統領を追及、ヨーロッパではノルウェーの女優ら500人が、スウェーデンでは3000人を超す歌手らが実名や名前を出して実態を告発するなど、世界に広がる勢いだ。どうもそこまではいっていない日本で、世界のうねりをどうとらえていくべきなのか。
震源地の米国ハリウッド。今月7日(2018年1月)、ゴールデングローブ賞を受けた女優たちが黒いドレスを着てセクハラに抗議の意思を示した。大物プロデューサーに性的嫌がらせを受けたとする被害女性が「MeToo」とつぶやいたところ、1週間で180万回以上ツイート・リツーイトされた。訴訟費用を負担し、企業を罰する法律の制定をめざす「Time's Up」(もう終わりにしよう)の運動も始まった。
集会で被害を訴えた中米からのアメリカ移民ファーナ・メラーラさんは、ホテルの清掃業務を20年以上している。客室で何度も襲われそうになり、経営者に訴えたが、取り上げてもらえなかった。辞めさせられるのを恐れて、あきらめていた。
ところが今、米国では「#MeToo」の書き込みでセクハラを告発されて辞職に追い込まれる大物司会者やプロデューサー、政治家が相つぐ。「地殻変動が起きている。社会構造に風穴が開こうとしている」(ハーバード大学のスイング・バビン教授)という。メラーラさんも「私は戦い続けます。もう沈黙しません」と行動を起こし、経営陣を訴えようとしている。
性被害を記者発表した女性は「売名行為」と批判された
米国出身のタレントでセクハラ問題をコラムによく書くパトリック・ハーランさんは「少しずつ意識が高まってきた。顔を出し、実名で告発する。ダムの決壊から水のように流れ出した」と話す。
被害女性の組合を立ち上げた佐藤香さんは「孤立からの解放」という。以前は被害にあっても70%の女性が、どこにも相談していなかった。「自分だけの問題ではなく、社会の問題だという気づきが広がっています」
それでも、日本のセクハラ意識は低い。世界経済フォーラムによるジェンダーギャップランキングは144か国中114位だそうだ。
映像ジャーナリストの伊藤詩織さんは去年(2017年)5月、3年前にあった性的被害を実名と顔を公表して記者会見で発表した。すると、伊藤さんの服装が問題にされ、中には「売名行為」との批判も集まった。相手男性は不起訴となり、検察審査会でもそれが妥当と議決され、民事訴訟を起こしている。これを知った女性ブロガーが自分の体験を公表すると、投稿が5万件を超えた。ただ、反響はその後長続きしていないのが現状だ。
加害男性に食らいつかないNHKは追及が甘い
広告制作会社に勤めていた28歳の女性は5年前、顧客を呼んだクリスマスパーティーでミニスカサンタの衣装を着せられ、体を触られた。「このまま持ち帰りますね」(顧客)、「どうぞ、どうぞ、オソマツですが」(社長)というやり取りがあった。
声を上げようと上司に相談したが「それを言っちゃダメだよ」「仕事が成立しなくなる」と止められ、先輩女性にも「がまんするしかない」と言われたという。その後もセクハラが続き、会社を辞めた。
この女性は「体験を意味あることに変換できればと書き込んだ。#MeTooがなかったら言わなかった」と話す。
セクハラ体験を告発したら心ない批判を浴びた女性もいる。劇団員の20歳女性は、高校2年の時に一緒にカラオケに行った演出家から、自分の性的行為を見るように強要され、駅のホームで2時間泣いた。これをツイートした翌日、演出家から謝罪文を受けたが、一方で「自業自得だ」という投稿もあった。被害者が被害者として扱われない。
パトリック・ハーランさんは「広告制作会社のケースは米国だったら、両社長や周りの男性を訴えて賠償金をもらえるだろう。弱い人を支えない社会はみっともない」「傍観は共犯だと思って、自らの責任で取り組まないと。男性版#MeTooが必要です」
佐藤さんは「セクハラを起こすのは被害者の問題ではなく、行為者の問題ということをはっきりさせないといけない」と力説する。一人一人の意識を変えないと、社会構造はなかなか改まらない。
その通りだろうが、セクハラ被害が深刻であればこそ、NHKの追及は甘い。被害女性の声と識者の見解を並べただけだ。
男性側の当事者に食い下がって、社会的地位も実力もあるはずの人間がなぜこんな愚行に走ったのかということまでを考えないと、この種の告発番組は完成しない。「ついやってしまった」というなら、そこに問題の根がある。その掘り起こしが、今回は中途半端で終わってしまった。