加害男性に食らいつかないNHKは追及が甘い
広告制作会社に勤めていた28歳の女性は5年前、顧客を呼んだクリスマスパーティーでミニスカサンタの衣装を着せられ、体を触られた。「このまま持ち帰りますね」(顧客)、「どうぞ、どうぞ、オソマツですが」(社長)というやり取りがあった。
声を上げようと上司に相談したが「それを言っちゃダメだよ」「仕事が成立しなくなる」と止められ、先輩女性にも「がまんするしかない」と言われたという。その後もセクハラが続き、会社を辞めた。
この女性は「体験を意味あることに変換できればと書き込んだ。#MeTooがなかったら言わなかった」と話す。
セクハラ体験を告発したら心ない批判を浴びた女性もいる。劇団員の20歳女性は、高校2年の時に一緒にカラオケに行った演出家から、自分の性的行為を見るように強要され、駅のホームで2時間泣いた。これをツイートした翌日、演出家から謝罪文を受けたが、一方で「自業自得だ」という投稿もあった。被害者が被害者として扱われない。
パトリック・ハーランさんは「広告制作会社のケースは米国だったら、両社長や周りの男性を訴えて賠償金をもらえるだろう。弱い人を支えない社会はみっともない」「傍観は共犯だと思って、自らの責任で取り組まないと。男性版#MeTooが必要です」
佐藤さんは「セクハラを起こすのは被害者の問題ではなく、行為者の問題ということをはっきりさせないといけない」と力説する。一人一人の意識を変えないと、社会構造はなかなか改まらない。
その通りだろうが、セクハラ被害が深刻であればこそ、NHKの追及は甘い。被害女性の声と識者の見解を並べただけだ。
男性側の当事者に食い下がって、社会的地位も実力もあるはずの人間がなぜこんな愚行に走ったのかということまでを考えないと、この種の告発番組は完成しない。「ついやってしまった」というなら、そこに問題の根がある。その掘り起こしが、今回は中途半端で終わってしまった。