全サブカル女子戦慄、のち晴れ。東京国際映画祭観客賞受賞の冠は伊達ではなかった。松岡茉優の無邪気さ、可愛らしさ、毒、弱さがてんこ盛り。ジェットコースターのごとく上下する主演女優の激情が、ことごとく「わかる~!」な人も、「面倒くせぇ!」な人も、スクールカーストに捕らわれている自覚のある人も、そうでない人も、きっと発見があるはず。自虐ラブコメであり、自立の物語であり、悶えんばかりの黒歴史を想起させる一方で、清々しさのビッグウェーブに溺死寸前。大変デトックスになりました。
松岡茉優演じる「ヨシカ」はメーカーの経理で働く24歳の普通のOL。一見大人しいけれど、内面は意外にもお茶目で過激。フレディ・マーキュリー似の上司を同僚と小ばかにしたり、行きつけの店では勝手に店員の性格を想像したりと、内向的ながら実は毒が利いている。趣味は絶滅した動物のWikipediaを読むことと、中学の時から思いを寄せる「イチ」(北村匠海)との思い出を反芻すること。
学校は狭い、会社よりも、社会よりもずっと。好むと好まざるにかかわらず、同じメンバーと同じ箱に居なければいけない。みんな同じ線の上に並んでいるように扱われるけれど、箱の中にははっきりした序列がある。見た目、ノリ、所属するコミュニティー、学力、その他もろもろ。「イチ」はその中で、くっきりと光っていた。サラサラのマッシュルームカットすらプラスに転じる美形。そして寡黙。自分の権威を誇示したい手合いと違い、望んでいないのに、周りが放っておかない。だからこそ、「ヨシカ」は「イチ」を意識していないフリを3年間続けた。みんなに構われることに飽き飽きしている「イチ」の気持ちを汲んでいるのは自分だけ、というわけである。当然、恋が前に進むはずもなく、今に至る。
2人の男の間で揺れるヒロイン、胃が痛くなる緊張感
そんな「ヨシカ」の人生を動かしたのが、会社の同僚「ニ」(渡辺大知)の出現である。仕事ができる自慢をしてみたり、なれなれしくすり寄ってきたり、格好悪いにもほどがある。それでも、括目すべきはその行動力。飲み会が嫌いなヨシカを場に引っ張り出し、無理やり連絡先をGET、デートにこぎつけ彼氏面をかまし、ストーカー寸前の求愛行動をじたばたと繰り返す。見た目の問題じゃない、コイツ......無理!!!「ニ」からのアプローチに辟易する中、一念発起した「ヨシカ」。じたばたしてもいい、「イチ」に気持ちを伝えに行く。
果たして、10年越しの恋の行方は。とはいえ、遠くの憧れか、近くの忠犬か、という構図に終わらないのが本作のストロングポイント。「イチ」と「ニ」の間で、合わせ鏡のように「ヨシカ」自身の姿が浮かび上がっていく過程こそ、一番の見どころ。何に惹かれ、何に冷めるか。周囲とどう関わってきたのか、どう映っているのか。そんな自分を自分はどう思っているのか。どうしていきたいのか。これまでの「ヨシカ」の内面を豊かに構成してきた「イチ」、もがいて、慌てて、恥をかいて、それでも前に進むエンジンになった「ニ」。
胃が痛くなるくらい緊張して、足がすくんで、それでも「勝手にふるえてろ」と自分を突き放し、選んだ結果に、間違いなんかあるはずない。(★3つ半)
ばんぶう