「世界一の名探偵」として数々の難問を解決してきたエルキュール・ポアロは、休暇を取りトルコからフランスに向かう豪華寝台列車オリエント急行に乗っていた。真冬の運行で旅行を楽しむには季節外れにもかかわらず、一等車両にはポアロの他、さまざまな職業や国の出身者が乗り合わせ、満席となっていた。その中の一人、アメリカ人の富豪ラチェットが夜中に何者かに刺殺される。容疑者は彼の秘書、執事、そして教授、伯爵、伯爵夫人、家庭教師、宣教師、未亡人、セールスマン、医者、公爵夫人、メイドら共通点のない乗客たちと車掌をあわせた13人。ポアロは親友でオリエント急行を運営する鉄道会社の重役・ブークとともに捜査に乗り出し、事件の解決に挑む。
1934年に発表されたアガサ・クリスティの長編推理小説が原作。これまで幾度となく映画化、テレビドラマ化されているので、観る前から結末を知っている人が非常に多い作品だ。それだけに従来作品とは違う新たな見どころが求められるわけだが、本作はケネス・ブラナーが監督とポアロ役を務め、これまでとはひと味もふた味も違ったエンタメ作品として仕上がっている。
まず一番に目を引くのがキャストの豪華さ。ジョニー・デップ、ミシェル・ファイファー、ペネロペ・クルス、ウィレム・デフォー、ジュディ・デンチのベテラン勢に加え、近年の『スター・ウォーズ』シリーズに出演する若手女優のデイジー・リドリーなど、これでもかという贅沢なキャスティングなのだ。しかもラチェット役のジョニー・デップは物語前半で早々に死んでしまうという、ジョニーファンには「もったいない!」とも思える使いっぷりのよさである。
また、今回のケネス・ブラナー演じるポアロは長身で運動神経も抜群のダンディな紳士で、これまでのポアロ像から大胆なイメージチェンジを図ったのも功を奏している。
喧騒のイスタンブール駅を出発し、いまにも雪崩が起きそうな豪雪地帯を汽笛鳴らしてひた走るオリエント急行の迫力、車内の調度品や個々が身に着けている衣装はどれも優雅で凝っていて、キャストのみならず映像をただ観ているだけでも贅沢な気分にさせてくれる。
お正月映画として誰にでも勧められる安定の出来ばえ。ラストを知っていながらミシェル・ファイファー演じるハバード夫人の告白には思わず涙が出た。
おススメ度☆☆☆☆
バード