人間だけでなく幽霊や魔物も住むという設定の鎌倉を舞台に、心霊捜査にも詳しいミステリー作家が新婚の妻と一緒に怪事件を解決するさまを描く。主人公の一色正和に堺雅人。正和の妻亜紀子に高畑充希。山崎貴が監督を務めた本作。原作は西岸良平氏のベストセラー漫画『鎌倉ものがたり』。
冒頭は子供だましの妖怪ファンタジー映画? という印象が強かった。正和の妻を演じた高畑の演技が幼すぎ、新妻というよりまるで正和の娘のような感じが否めなかったせいもある。魔物や幽霊の存在に派手に驚き、トイレにも一人で行けないくらい怯える。そうかと思えば、正和と一緒にいるときは子供の様にはしゃぎ、些細なことで落ち込んだりすねたりして正和を困らせる。正和のことを「先生!」と呼び、甘えて、なんだかそれが設定とわかっていても、わざとらしくて最初はイライラしてしまう。しかしそんな純粋な亜紀子の存在が、物語が進むとともに、なぜか愛おしく可愛らしくて、目が離せなくなるのだ。亜紀子は貧乏神でも家に迎え入れて、朝ご飯まで食べさせてしまうくらいお人好しだ。正和のことを第一にいつも考えて、家では常に明るく笑顔を絶やさない。肝心の亜紀子の魂が黄泉の国へ連れ去られ、それを正和が助けにいくシーンは本作では最後の最後。そこに行きつくまでは、亜紀子と正和、二人を取り巻く鎌倉での穏やかで奇想天外な日々が綴られる。死してもなお、幽霊になって愛する人の側に存在する人々。そして本作が、単なる子供向けファンタジーではなく、愛する人のために何ができるのかを問う、深い内容が盛り込まれた作品であることに気が付くのだ。特に、正和の馴染みの編集者を演じた堤真一扮する本田は、自身が亡くなってからも家族の側にいたい一心から、カエルの魔物に姿を変える。そっと風船配りのアルバイトを遊園地でしながら、妻・里子に思いを寄せる男・ヒロシと娘が楽しむ姿を、涙しながら見守る。ヒロシに対し、やりきれない怒りの感情を抱きつつ、本当は家族に幸せになって欲しいと心から願っている。だからこそ、やりきれないその怒りの感情を押し殺し、最後は自ら身を引くのだ。魔物になっても消えない家族への愛情を、堤によって思い知らされる。最新のVFXによって作り出された世界観や魔物たちの姿はさておき、本作は一途な愛の物語である。観客はクライマックスで愛しい亜紀子と正和を、どうか離れ離れにしないでくれと、一同に願うことになるのは間違いない。「亜紀子のいない世界で長生きしてもしょうがない」と呟く正和に、共感せずにはいられない。
PEKO
おススメ度☆☆☆