<火花>
お笑い芸人出身の板尾創路監督ならではの演出 芸人の舞台裏を活写

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(C)2017『火花』製作委員会
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   お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹による芥川賞受賞作である同名小説を、お笑い芸人出身の板尾創路がメガホンを取り、共に関西出身である菅田将暉と桐谷健太のW主演による映画化。なかなか芽が出ない若手お笑いコンビ「スパークス」のボケ担当・徳永は熱海の花火大会で相方の山下(川谷修士=二丁拳銃)と漫才をしていたが、来場者は興味を示さず、二人の前を通り過ぎるだけだった。彼らの後に漫才を披露した「あほんだら」のボケ担当・神谷の型破りでいて奔放な姿に徳永は感銘を受け、彼に弟子入りを懇願する。神谷の伝記を書くことを条件に徳永は弟子入りすることになり、彼らは四六時中行動を共にし、理想の漫才を追求していくのだった。

   寒空の螺旋階段でネタ合わせの最終確認をしている出番待ちの芸人。袖口から他のコンビの漫才を真剣な表情で見入っている出番を終えた芸人。舞台終わりの打ち上げの場でテレビ局のディレクターに営業活動をする芸人。お笑い芸人出身の板尾創路が監督をした説得力は「舞台裏」という細部に表れている。特に印象的なのはお笑い芸人が成功することへの難しさ、苦難、葛藤に対する視点に、成功者が無名の者を見下ろすようなバイアスが一切掛かっておらず、むしろ売れない時期がもたらす焦燥感や恐怖感こそが重要であると伝えているように思える。「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である」とはチャップリンの言葉であるが、お先真っ暗な現状から見る世界こそに、お金では買えないネタが転がっているのだと、監督は芸人ならではのエールを観客に送っている。徳永や売れない芸人たちは、一体何をすれば売れるのか、才能なのか、努力なのか、訳も分からないまま、ただ時間だけが過ぎ去っていくのが怖くて仕方ない。この登場人物たちの爆発しそうな感情と、監督の穏やかな視点のギャップが、映画版ならではの「火花」だろう。

   冒頭、熱海の夜空に上がる花火は、徳永と山下の夢の象徴であった。徳永は分かっている、スパークスも神谷も花火にはなれないことを。クライマックス、花火を見上げる側になってたまるかという思いで10年間芸人として活動してきたあらゆる感情を爆発させたような「スパークス」の超長回しの漫才シーンの凄みは言葉を失う。菅田の熱演を引き出す現役漫才師の川谷の「ツッコミ」は余りに優しい。何度も何度も稽古をしてきたであろうこの長回シーンこそに、芸人が何であるかが集約されている。花火に成りえなくとも、火花のまま消えてしまおうとも、そのようにしか生きていけない人間=芸人なのだ。

おススメ度☆☆☆☆

丸輪 太郎

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