いま東京で開かれている「国際ロボット展」に熱い視線が注がれている。日本は産業用ロボットで世界シェアの半分以上を占めながら、ITではアメリカに圧倒され、ものづくりでもアジア製造業の後塵を拝する。注目はソニーとソフトバンクが発表したロボットだ。
ソニーは12年ぶりに犬型ロボットの新型「アイボ」を発表した。最新の人工知能(AI)を搭載し、飼い主の感情まで学習して本物の犬のように癒しになる。家庭内の音声、画像データも収集する。超小型レンズ、高性能マイク、タッチセンサーなどはスマホの技術、アクチュエーター(関節部品)などはウォークマン以来のメカ技術、部品4000点を小さな犬型に組み込む熟練の技術に、AIが加わった。
9月(2017年)下旬、量産モデル第1号機が「ワン」と鳴き声を発した。平井一夫社長が開発を指示して1年余り。「社員が元気でしょ。創造性を発揮して、もう一度ソニーの方向性、チャレンジ精神を表現する象徴的な商品」と話す。
新たなビジネスもにらむ。「データビジネス」だ。検索ではグーグル、商品情報ではアマゾンなどがデータを支配しているが、生活空間内のリアルデータは誰も持っていない。アイボは動くAIとして、音声、画像を収集できる。近い将来、年寄りの見守り、子供のケアも可能になると見る。
ソニーはこの十数年、経営不振から工場を縮小・閉鎖し、6万人をリストラしてきた。「国内雇用を守る戦いでもある」と西川泉・執行役員は言う。「これだけのものを決められた時間で作り上げる一体感は、日本の中で作る強みです。大事にしたい」
ソフトバンクが目指す「ロボット派遣業」
ソフトバンクもロボット展示会を開いた。自らはものを作らないサービス企業だが、投資・買収した企業のロボットを並べたのだ。店頭でおなじみの「ペッパー」もフランスのベンチャーのものだ。それ以外にも、運搬ロボ、清掃ロボなどが並んだ。吉田健一・ロボティクス本部長は「世界のいい技術を持ってきて提供するロボット派遣業(元締め)。ロボットで圧倒ナンバーワンになりたい」と語る。
深夜の東京・上野駅で掃除ロボットの実証実験が行われた。掃除機の本体は中国メーカーの既製品だが、これにアメリカのブレイン社が開発したAIユニットを搭載するとロボットになる。ソフトバンクはこここに130億円を投資している。
実験では点字ブロックの凹凸でゴミが残った。点字ブロックは日本独特のものだったのだ。そこで、点字ブロックに乗って走るように学習させたところ、完璧に動いた。ロボは稼働中にもデータを取り、分析して作業を効率化する。予想より短時間で多くのゴミが取れた。
吉田本部長は「AIもロボも技術はできています。が、何に使うかがつながっていない。つなげることに価値があり、ニーズがあるんでしょう。それが元締めビジネスです」。宅配、ルームサービスのプロジェクトが動いており、防犯や見回りも視野にあるという。
果たしてこれらが、日本再生の切り札になるのか。
東京大大学院の松尾豊・特任准教授は「なる」と条件を挙げた。「Aiの劇的な進化」「フルセットのハードウエアを作る技術で日本は強い」「リアルデータの収集で巻き返し」である。NHKの片岡俊文ディレクターは「アイボの課題は価格」という。サービス込みで1体30万円。これを手頃な価格にできるかどうかだ。