出版界のスティーブ・ジョブズ「佐渡島庸平」に注目!大ヒット「君たちはどう生きるか」仕掛け
出版取次の年間ベストセラーが発表になった。1位は「九十歳。何がめでたい」(小学館)、2位は『ざんねんないきもの事典』(今泉忠明監修、高橋書店)、3位は恩田陸の「蜜蜂と遠雷」(幻冬舎)、村上春樹の「騎士団長殺し」(1・2部、新潮社)は5位。
「九十歳」は読んだ。さほど面白いとは思わなかったが、年寄りの愚痴や、世間に対する直言が売れる時代というのは、まだまだ長生きしてもいいよということなのだろうか。
マガジンハウスから出た、吉野源三郎が80年前に書いた「君たちはどう生きるか」を漫画化した本が大ベストセラーになっている。私も読んでみたが、吉野の原文がかなり引用され、漫画を読むというより、わかりやすい解説書という感じの本である。
これをプロデュースしたのは、出版界の革命児といわれる「コルク」の佐渡島庸平である。講談社の私の後輩だが、彼は「宇宙少年」「ドラゴン桜」などのメガヒット作を手掛けた編集者である。5年前に、これからは欧米のように作家にはエージェントが必要だと、講談社を飛び出して「コルク」という会社を立ち上げた。現在は安野モヨコや小山宇宙、三田紀房などの売れっ子漫画家や芥川賞作家・平野啓一郎、「君たちはどう生きるか」を漫画化した羽賀翔一らと仕事をしている。
佐渡島が書いた「ぼくらの仮説が世界をつくる」(ダイヤモンド社)は、見事な編集者啓発の書である。出版不況と言われるが、佐渡島は「昨今の出版不況は、作品の質が落ちているせいで起きているわけではなく、本について、語る場、語る習慣がなくなってきているのが原因」との仮説を立て、出版がどうなるのかではなく、出版をどうするかを考え、精力的に活動している。贔屓ではなく、彼は出版界のスティーブ・ジョブズになれるかもしれないと思っている。彼に注目しておいたほうがいい。