引退するキタサンブラック 馬主北島三郎さんとの奇妙な符合

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   競馬ファンは馬に自分の人生を重ねることがある。それが競走馬特有の人気を呼ぶ。今年(2017年)限りで引退を決め、G1最後のレースとなる有馬記念に最多勝タイ記録をかけるキタサンブラックも、そういう馬だ。

   歌手北島三郎さんの持ち馬として知られるが、そこには支える人たちとの「知られざるドラマ」があった。

   北島さんが「息子同然」とまで語るキタサンブラックは、無名からはい上がる生き方がオーナーの歌手人生によく似ている。

   競走馬2000頭が集まる栗東トレーニングセンターでキタサンブラックを見てきた清水久詞調教師は「まさかここまで来るとは思わなかった」と言う。生後8か月のころは体が細いうえに注目の血統でもなく、買い手がなかなかつかなかった。そこで北島さんと出会った。「俺を買ったらいいぞという目をしていた。縁、絆みたいなものがあった」そうだ。

   北島さん自身がたたき上げの人生だ。北海道の漁村から上京し、酒場の流しからスタートした。9年かけて、27歳の時に紅白歌合戦に初出場。自身を「懸命に走り続ける馬に似る」と思っている。

   キタサンブラックも、無名馬から頂点へ上りつめた。ハードトレーニングによく耐えた。800メートルの急斜面を駆け上る「坂路調教」を、普通の馬は1日1本なのを3本も走り、身体能力を飛躍的に高めた。

   それまで200頭近く馬のオーナーになってもG1で勝てなかった北島さんが「神が与えてくれた宝物です」というほどになり、優勝を重ねていく。

   しかし、去年(2016年)の夏、北島さんは転倒して頸椎を損傷、ステージに立てなくなった。キタサンブラックも、宝塚記念でまさかの9位。疲労がたまっていたらしい。北島さんは「よく頑張った」と、今年いっぱいで引退させる決意をした。

   トレーニングセンターでは疲労をとりながらも力を取り戻す試行錯誤を慎重に続けてきた。奇しくも、北島さん自身のリハビリとほぼ同時進行だった。

   そして、今年秋の天皇賞レース。武豊騎手はオーナーの体調も案じながらの騎乗となった。「喜んでいただける結果を出そう」と臨んだが、当日は雨でぬかるんだコースで、しかもスタートでアクシデントが起こった。

   キタサンブラックがゲートに頭をぶつけ、出遅れた。先行タイプなのに、後方に追いやられた。そこで武騎手は勝負に出た。ぬかるむために他馬が避ける内側に進路をとって、一気に先頭へ出た。「のびるタイプの馬なので、いけると思った」そうだ。トップで逃げ切った。

   北島さんもテレビに復帰し、歌手として走り続ける思いを新たにした。「時間が欲しいと思うときがある。でも、それは許されない。まっとうしたい」と語る。キタサンブラックには「いつも希望と夢をもらった」という。

最後まで粘って勝つ馬

   キタサンブラックのG1レース6勝は「くび差」「はな差」が多い。史上最強と言われたディープインパクトが4馬身、5馬身という圧倒的な差で勝ったのに対して、最後まで粘って勝つスタイルだ。

   競馬ファンのタレント、優木まおみさんは「武骨で、筋が一本通っている。親近感も魅力です」という。

   騎手の黒岩悠さん(34)は、デビュー2年目に17勝した実績の持ち主だ。その後不振に陥り、調教にかかわるようになった。キタサンブラックを見て「責任感や緊張感が得られる。自分も騎手としてもう一度しがみついてやろうという気持ちになれる」と話す。

   NHKにも視聴者から「コツコツと走る姿が大切なメッセージ」「負けても称える北島さんの言葉が素晴らしい」との声が寄せられているという。

   キタサンブラックは、27日(2017年11月)のジャパンカップは3着だった。フリーアナウンサーの杉本清氏は「一生懸命によく走った」と評し、優木さんは「有馬記念につながった気がします」と受け止めた。

   杉本氏は「これからは血筋を残す仕事が待っている。無事で、最高の結果がついてくればいい。そのときは北島オーナーが『まつり』を熱唱すると思う」と語る。

   武田真一キャスターは「どんな子孫を残して、新しい風を吹かすかにも、大きな期待と興味がわいてきます。全力で走り切ってほしい」と結んだ。

   名馬にそれぞれの歴史あり。努力型名馬といったところだろうか。ファンの心揺らす、その人気もうなずける。

クローズアップ現代+(2017年11月27日放送「サブちゃんとキタサンブラック ~知られざる日本一への道~」)

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