トランプ大統領が当選から1年、今も40%近い支持率を維持している。ロシア疑惑や地球温暖化防止のパリ協定離脱など、さまざまな問題を抱えながら、投票した人の91%が支持し続けるという調査もある。「いったいなぜ?」(武田真一キャスター)を探った。
「世界一強い経済を作る」「米国を偉大にする」を掲げたトランプ大統領の下で、米国の株価は上昇した。法人税減税、移民締め出しや工場の米国内呼び戻しによる強引な政策が成功したのだろうか。
ケンタッキー州の町。大統領選でトランプ氏に投票した炭鉱労働者のウォルター・ディクソンさんは「景気はいい、労働者が戻ってきている」という。ディクソンさん自身、選挙が終わるとすぐに仕事を見つけることができた。今年は車2台を購入し、家族4人で楽しんでいる。「トランプは自分たちを優先してくれる」と感じるそうだ。
こうした衰退産業復活を環境対策よりも優先して推し進めたことが「クリントンやオバマとちがう。トランプは上々だ」と、労働者の支持を今も集める。
しかし、恩恵はまだ一部だ。
オハイオ州のセインズタウンは、鉄鋼業がまだ立ち直っていない。炊き出し施設には連日200人が集まる。なのに、多くが今もトランプ支持だ。
ドミニク・ハンフリーさんは今年(2017年)1月、自動車工場を解雇された。日雇い仕事で生活するが、病気の母親、狭いアパート、暮らしは改善されない。それでも支持はゆるがないという。トランプ批判の新聞、テレビは一切見ない。「トランプを批判するメディアや人にだまされると感じるから」だそうで、これではトランプ大統領への疑問も起こらない。「彼は米国を救おうとしているだけだ。抵抗勢力が邪魔をしている」
現状不満をつく言葉遣い
トランプ大統領がよく使う言葉を調べると「地獄」「力強い」「災難」。使わない言葉は「自由」「人権」「平和」となる。
東洋大学の横江公美教授は「ディストピア」というキーワードを指摘した。ユートピア(理想郷)の反対語だ。「そこをつくトランプ大統領の言葉がうけている」という。
経済アナリストのジセフ・クラフト氏は、議会を中心とする現状政治への不満、同じ言葉を繰り返してアピールするトランプ氏のコミュニケーション術、それに減税政策への期待の3点をあげる。「米国人の60%が直接間接に株に投資しているから、株価上昇のインパクトは大きい。ただ、まだ期待の段階で、株価が下がると期待は離れる。これから成果を出さないといけない」
トランプ大統領は「海外から工場を呼び戻す」「不法移民からアメリカ人の雇用を取り戻す」と、2500万人の雇用創出を掲げる。ところが、製造業の現場で思わぬ混乱も起きている。
中国からサウスカロライナ州に戻った自転車工場。アーノルド・カムラー社長はトランプ大統領に共感し「彼のアイデアは素晴らしい」と思っていたのだが、部品調達に問題が生じた。トランプ大統領が中国からの輸入関税引き上げを宣言したため、部品価格が上がった。国内メーカーを探しても「すべてなくなっていた。ゼロから始めなければなりません」という。
雇用創出も、描いた図面どおりには進まない。中国なら人の手作業でやることを米国では機械がやる。雇用は半分にとどまる。クラフト氏は「オートメーション化が原因で、再検討しないと、雇用創出の足かせになりかねない」と話す。
不法移民の送還問題はどうか。
インディアナ州のトラック部品工場。以前は労働者の半数がヒスパニック系で、多くが正規ビザを持たなかった。それが徐々に減り、今はほとんどいなくなった。会社は白人労働者の採用を進めようとしたが、薬物テストをすると半分近くが陽性と出た。麻薬使用歴があり、勤務が長続きせずに辞める人が続出した。
注文は増えても人手不足という皮肉に、社長は「欠勤者が出て製造ラインを埋められない状態です。先週も仕事を中国にとられた」と嘆く。
トランプ大統領が初訪問した日本とのかかわりはどうか。
横江教授はトランプ大統領がゴルフでもUSAの帽子をかぶり、日本車を米国内で作ろうと呼びかけたことに着目する。「あれは自国内の忘れられた地域の労働者へのメッセージで、日本との貿易摩擦は起きない」と推測する。
トランプ政権は今後のポイントを、クラフト氏は「ロシア疑惑は時間がかかるから、すぐには問題にならない。それより所得や賃金を中間選挙までに上げないと、支持の維持はむずかしい」と観察している。
真価はこれから問われるということか。訪日の会談や記者会見で「米国製武器を大量に買え」ともトランプ大統領は安倍首相に求めた。雇用創出の一助にするつもりだろうが、こんな大統領にのせられるだけでいいのかという問題が、日本政府に相も変わらずつきまとっている。日本との貿易赤字が大きいといっても、中国はもっと大きい。
*クローズアップ現代+(2017年11月6日放送「徹底ルポ "トランプのアメリカ"でいま何が」)