「商売のことは坊主に聞け」。こんな諺(ことわざ)が残っている商売上手の寺。東京・浅草の浅草寺が提示したケタ外れの家賃値上げを巡って仲見世商店街と一悶着が起きている。
浅草・雷門の大提灯を抜けると仲見世商店街。人形焼や雷おこし、かんざし、扇子など昔からの和物などを売る88店舗が賑やかに軒を並べる。
先月(2017年9月)、この商店街に浮上したのが、大家の浅草寺から突き付けられた家賃の大幅値上げ。これまで約10坪当たり月額1万5000円の家賃を支払っていたのが、突然なんと16.6倍の25万円への値上げが提示された。
家賃3万円から50万円に
商店は1件当たり約20坪の土地・建物を借りているので、月額3万円の家賃が一挙に50万円にハネ上がる勘定になる。
仲見世商店街振興組合の冨士滋美理事長は「少しは業績がいいところもあるでしょうけど、値上げで家賃を払える店は限られる。出ていくとなると浅草が浅草でなくなってしまう」と危惧する。
では、なぜ浅草寺は大幅値上げを突然提示したのか? 経緯を知るとやはり商売上手の寺としか言いようがない事情が分かってきた。
仲見世商店街の成り立ちは、江戸時代に遡る。境内で働いていた人たちに参道上に出店の権利を与えられたのが始まりだった。
もともとは浅草寺が所有していた土地だが、明治4年に土地、建物ごと国に所有権が移り、東京府が管理を請け負って今日の仲見世の原型となる長屋が建てられた。現在の88店舗の半数以上が130年以上の歴史を持つ老舗という
明治44年に土地については国から浅草寺に返還されたが、仲見世商店街は東京府が管理する状態が続き、今日まで商店街の店舗は家賃を東京都に支払ってきた。
ところが仲見世商店街を管理してきた東京都が今年7月に土地・建物を一括し約2000万円で浅草寺に売却、所有権が浅草寺に移ったことで状況が変わってしまった。
しかし、商店街側には土地、建物の一括売却や家賃の大幅値上げには不満が募るようだ。確かに周辺の地価に比べると破格の安さだが、それは自分たちがすべて建物の維持・管理を行ってきたからという。
関東大震災(1923年)で商店街がすべて倒壊し、1945年の東京大空襲で大部分が焼失したが、そのたびに自分たちで金を出し合い立て直してきた。東京都が維持や管理で負担したことはなかった。
つまり、これまでの月額10坪当たり1万5000円は、家賃というよりも地代、借地料。それが16.6倍に跳ね上がるのはたまらないというわけだ。
この悶着に浅草寺側は「値上げは弁護士を通じて周りの相場を伝えただけ。仲見世商店街から出ていく人がいないように、今後は交渉していく予定です」と話す。
小倉智昭キャスターは「仲見世って『見せる世』でしょ。観光客は見るだけだまり買わないんですよね」。
それにしても周りの地価相場で大幅値上げを提示したというなら、東京都が土地・建物一括で約2000万円という安さで浅草寺に売ったというのも問題ある。