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知ったかぶりして恥かいてる名言の本当の意味 「初心忘るるべからず」の初心とは・・・

   週刊文春の「著名人がすがった『がん民間療法』」を見てみよう。医療機関で行われている「通常医療」に対して、一般人の間で広まっている治療を「民間療法」という。健康食品、食事療法、自然療法などがあるが、効くというエビデンス(科学的根拠)が乏しい上に、保険がきかないために高額になる。「患者を食い物にしている」と非難する専門医も多いようだ。

   では、なぜ効かない治療法を多くの人がやるのだろうか。人気のエッセイストだった米原万里(享年56)は、こう書いている。<正規の医療に対して代替医療と呼ばれているこの種の商品の多さに驚き、価格の、人の弱味につけ込んだ犯罪的な高さに腸が煮えくり返りながらも、拒みきれない自分が情けない>

   彼女は卵巣がん。米原は、抗がん剤をやればがんは小さくなるが、副作用で苦しむうえ、免疫力も奪ってしまうから嫌だ。代替医療は「わずかでも可能性があるなら、やってみるべきだ」と妹に語っていたという。川島なお美も小林麻央、忌野清志郎もさまざまな民間療法をやった。

   群馬県前橋市に緩和ケア診療所を開いた萬田緑平医師は、かつては民間療法に否定的だったという。だが、患者に抗がん剤を投与していた医師が、自分ががんになったとたんに民間療法にのめりこみ、「治るんだ」と、頭では治らないことがわかっているのに、さも効果があるように話しているのを見て、こう変わったという。<治りたい気持ちを捨てきれる人はいません。何も希望がないのは、ものすごいストレス。わずかでも希望があることで、あんなにも笑顔になれるんだったら、たとえ藁でもすがったらいいんじゃないでしょうか>

   ただ、そうした患者を食い物にして、効くはずのない療法を施したり、高額なものを買わせたりする「悪徳」な人間がいることも事実。また、そうした民間療法を影響力のある有名人が吹聴して、抗がん剤治療をやらずに命を縮めてしまうケースもある。私だったらどうするだろう。

   最後に週刊ポストの格言で締めよう。どれもよく知っているのだが、本当の意味を解っていなかったと、自分の無知を恥じた。「初心忘るべからず」は室町時代の能楽の開祖・世阿弥の言葉だ。これは世阿弥の書「花鏡」に記された言葉だそうだが、初心とは初々しさではなく、「芸が未熟だったころ」のことだという。

   福沢諭吉の「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」というのも、諭吉は続いて、人は本来平等なはずなのに、貧富の差や身分の差があるのはどうしてなのだろうと説き、「賢人と愚者と別は学ぶと学ばざるとによりてできるものなり」と続ける。だから学問をせよといいたかったので、「結果の不平等」については肯定しているというのである。聖徳太子の「和を以て貴しとなす」も、本来は「意見が異なるのは当たり前だから、よく話し合え」という意味だという。熟議せよということで、波風を立ててはいけないという意味ではないそうだ。

   「児孫のために美田を買わず」は、子孫に財産を残そうと、私利私欲に走るようでは志を果たせない。全てのものを犠牲にせよという自分自身への戒めだという。政治家どもに聞かせてやりたいものである。「武士道と云うは、死ぬことと見つけたり」は『葉隠』の一節だが、人間は誰しも生きて死ぬという無常観についての言葉で、それを前提にして「自分の思うように生きよ」と説いているそうである。

   【蛇足】先週から秋のG1が始まった。今週は「菊花賞」。絶対当たらない予想をちょこっとだけ。道悪のディープインパクト産駒は信頼性に欠ける。したがって◎キセキ、○アルアイン、▲ダンビュライト。△はサトノクロニクル、ベストアプローチ、サトノアーサー。連ヒモの大穴でスティッフェリオ。GOOD LUCK!

元木昌彦プロフィール
1945年11月24日生まれ/1990年11月「FRIDAY」編集長/1992年11月から97年まで「週刊現代」編集長/1999年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長/2007年2月から2008年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(現オーマイライフ)で、編集長、代表取締役社長を務める
現在(2008年10月)、「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催。編集プロデュース。

【著書】
編著「編集者の学校」(講談社)/「週刊誌編集長」(展望社)/「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社)/「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス)/「競馬必勝放浪記」(祥伝社新書)ほか

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