ころころ変わる殺人犯の供述 見えない真相
<三度目の殺人>

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   30年前に殺人の前科がある三隅(役所広司)が、解雇された工場の社長を殺害し、火をつけて燃やした容疑で起訴された。本人は逮捕後すぐに犯行を自供し、死刑はほぼ確実。〝負け〟は決まったようなものだった。彼の弁護を担当することになった重盛(福山雅治)はなんとか無期懲役に持ち込むために事件の調査を始める。

   監督は『そして父になる』(2013年)や『海街daily』(2015年)など、近年、ヒット作を世に作品を送り出している是枝裕和。

   ジャンル分けするなら「サスペンスドラマ」というくくりに入るのかもしれないが、この映画は最後まで観ても、それこそ〝火サス〟のようにわかりやすい答えは用意されていない。

   三隅の供述は会うたびにころころ変わり、最初は金目当ての犯行のはずが、週刊誌の取材には被害者の妻・美津江(斉藤由貴)に頼まれたと答え、2人は不倫関係だったという報道で世間は盛り上がる。重森は事の真相を突き止めようと三隅を問い詰めるが、どこか他人事で話は要領を得ない。さらに三隅の周辺に聞き込み調査を進めると、今度は被害者の娘・咲江(広瀬すず)と時々会っていたことも発覚。重盛は、三隅・美津江・咲江の三者はある秘密を共有していたことを知る。

   そして彼はある仮説を立てた。もしかしてこの殺人は、咲江を救うためのものだったのではないかと。しかしその時、すでに重盛は三隅が抱える得体のしれない闇に飲み込まれていたのだった。

   物語の終盤、重盛は三隅が前回殺人を犯した北海道へ向かうが、そこで事件を担当した元刑事は三隅のことを「空っぽの器のようだった」と答える。このあたりから、物語は急に不気味さを増してくる。それまで真犯人は誰か、殺した理由は何だったのかを追いかけるサスペンスドラマだと思って観ていたのに、突然はしごを外されたような感覚に襲われる。是枝がこの映画で見せたかったものは、そんなものではない。ラストも単純な紋切型を嫌うじつに是枝らしい仕上がりとなっている。

不条理な社会と人生

   人間というのは、すべての事象になにかしらの理由をつけたがる。そして、器の中がからっぽだと、すぐに何かで埋めたくなる。その何かとは〝希望〟や〝救い〟なのかもしれない。三隅という器には、いったい何が入っていたのか。鑑賞後はいやおうなく、このことを考えさせられ、自分の中の既成概念をえぐられる。

   すっきりしない結末には賛否が分かれるところだろうが、筆者はこの釈然としなさがよいと思った。普段、私たちは目を向けていないが、この世の中は誰にもコントロールできない〝理不尽〟で常にあふれている。三度目に殺されたのはいったい誰だったのだろう。

おススメ度☆☆☆☆☆

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