西日本に住む50代の女性が昨年(2016年)、野良猫に手を噛まれたのがもとで死亡した。猫はマダニが媒介する重症性血小板減少症候群(SFTS)に感染していて、女性にうつったとみられる。市街地の猫から人に感染した初のケースだ。SFTSに罹ると、高熱や下痢、嘔吐、出血で死に至ることがある。有効な治療法はなく致死率は20%。ここ5年で58人の死亡者が確認された。
鳥取県の動物病院獣医の小西みさほさんは「ペットの猫にマダニが付くことはなかったのですが、ここ数年、猫にもマダニがいると言われはじめ、注意していたところ、その実感がありました」と話す。マダニは山奥でイノシシやシカなどの野生動物の血を吸って棲息し、市街地で頻繁に見つかることはなかった。それがなぜ都会にいるのか。
住宅地出没のイノシシ・アライグマ・ハクビシンが拡散
危険生物のスペシャリスト、国立環境研究所の五箇公一・生物生態系環境研究センター室長はこんな指摘をする。「地方の市街地ではイノシシが生ゴミをあさったり、都心でも渋谷や秋葉原でアライグマやハクビシンが捕獲されています。そうした野生動物がマダニを運んでくるんでしょう。ペットの猫についているのは、相当身近なところまでマダニが入り込んでいるという警告です」
和歌山県で特定外来生物のアライグマを調査している「ふるさと自然公園センター」の鈴木和夫さんは、「住宅地周辺まで侵入してきたアライグマのほとんどにマダニがいる」という。
マダニに感染するペットは猫が多い。五箇室長は「7月(2017年)に広島の動物園のチーター2匹がSFTSで死亡したと報告がありました。ネコ科の動物はひょっとしたらSFTSの感受性が高い可能性があります。猫の感染に十分注意を払う必要があります」と話す。
ペットクリニックで駆除薬処方
対策があるのか。「ペットにマダニがつかない駆除薬があるので、獣医師とに相談して処方してもらうことが大事です」(五箇室長)。ハイキングや登山では草むらの中を歩かない。長袖のシャツに長ズボンを着用し、長ズボンの裾は靴か靴下の中に入れる。市販しているマダニ用の防虫スプレーを持参する。
里山をどんどん開発して野生動物との距離が接近し過ぎたのもマダニが市街地に侵入してきた背景としてあるのかもしれない。