アン(ダイアン・レイン)の夫・マイケル(アレック・ボールドウィン)は有名な映画プロデューサーだが仕事以外はすべて妻任せ。ある日、アンはカンヌ国際映画祭に出席するマイケルに同行し、カンヌを訪れた。そこで彼の仕事仲間であるフランス人のジャック(アルノー・ビアール)と、2人きりで車でパリへ向かうことになる。カンヌからパリまではたった7時間のドライブ。しかし、ジャックに魅力的な現地のレストランや遺跡などへ案内されるうち、いつのまにか単なる移動だったはずが、唯一無二の旅へと変わっていく。
フランシス・フォード・コッポラの妻であり、ソフィア・コッポラの母であるエレノア・コッポラによる監督・脚本。ドキュメンタリー監督として長年活躍してきた彼女が、80歳にして初めて手掛けた長編劇映画で、ストーリーは自らの体験がもとになっている。
アンは見た目の印象と娘が18歳という年齢から推察するに、50歳前後。若い頃もさぞ美しかったのだろうが、現在も十分美しく、そして知的だ。趣味はコンパクトデジカメで写真を撮ることで、本人は「ただのお遊びよ」と謙遜するが、被写体をアップで、ユニークな角度から切り取ったショットはなかなかのセンスだ。
一方、ジャックはよくいるフランス人男性のタイプで、「パリは待たせておけばいい」と、名所巡りをしたり、大量のバラを買い込んでアンにプレゼントするなど、寄り道だらけ。チャーミングだが、失言やミスも多く、さらに行く先々で昔の恋人と遭遇したりもして、アンをイライラさせる。
決して仲が悪いわけではないけどすでに関係はマンネリ化しているマイケルと、完璧ではないけどユーモアがあって刺激的なジャック。しかし、すでに人生も半ばを過ぎたアンには、両者を天秤にかけることは愚行であり、自分の人生の充実感を彼らに求めるのは違うと気付いている。この心理は決して映画プロデューサーの妻でなくとも、中年を過ぎた女性なら誰でも共感できるところだろう。
「フランス人は家族を大切にするが、自分の情熱にも正直に生きる」というジャックの言葉が、〝自分の幸せはすべて自分次第〟とすでにわかっているアンにどう響くのか。食べかけのクロワッサンや道端の花、ワイングラスなど最初は旅先の他愛のないものが彼女の被写体だったのが、次第にカメラレンズがジャックの顔や指先、口元などへ向かっていくさまで、女心の変化を上手く表現している。
それにしても、不倫だの泥沼離婚だのとジメジメした最近のゴシップに辟易している日本人にとって、ジャックの言葉は羨ましいくらいに清々しい。そして、サント・ヴィクトワール(セザンヌの絵のモデルにもなった山)、ラヴェンダー畑、プロヴァンスの古城、ローヌ川など道中で訪れる南フランスの名所のなんと美しいこと。この夏どこにも旅行の予定がないという人も、観ればよい気分転換になるかも。
おススメ度☆☆☆
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