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事件は追わない。ニュースは記者が作る・・・「いいね!」殺到のネットメディア

 

   今週の記事では週刊文春の「新興メディア記者が語る『ニュースの未来』」が興味深かった。2013年に創業したオランダのネットメディア「デ・コレスポンデント」は、人口1700万人なのに、月6ユーロ(約740円)を払う有料購読者が5万人超もいるという。オランダの大手紙にいた人間が「ニュースを追うのはもうたくさんだ」と辞めて始めたメディアで、編集綱領は「広告収入に頼らない。従来の客観報道はやめて、書き手の怒り、疑問、喜びが素直に出た記事を出す。ニュースを追うのではなく、深い背景を抉るストーリーを追う」

 

   このことを宣言してテレビでクラウドファンディングを呼びかけたところ、8日間で1万5000人から100万ユーロが集まったという。印象的なのは、パリで同時多発テロが起きた時、他のメディアが次々と記事を流す中、このメディアは「我々はこの事件の意味を考えています。今日は何も公開しない」とSNSに投稿した。すると1万人以上から「いいね!」がつき、購読者が跳ね上がったという。

 

   また、記事を執筆する際に、あまり詳しくない分野については、「一日目にはこれを学んだ」「二日目には・・・」と読者とともに学んでいき、読者に質問し、そこで寄せられた情報も記事に取り入れたりするそうだ。おもしろいのは、ニュースを作ることもするというのだ。ある銀行の経営方針を批判し、自分の口座をその銀行から移そうと思ったが、時間もかかるし面倒だった。そこで読者に呼びかけ「銀行口座を移そうと思うんだけど一緒にやる?」と呼びかけた。すると1万人が一緒に口座を移し、その週の大ニュースになった。それはそうだろう。日本でも1万人が特定の銀行から口座を移したら大騒ぎになる。

 

   これはジャーナリズムではなく、アクティビズム(社会運動)だといわれたが、すべての良いジャーナリズムはアクティビスト(活動家的な)・ジャーナリズムだと思うと、このメディアの29歳の記者はいっている。広告に頼らない、自分たちがニュースを作るというのはわかりやすいが、何か重大な事件や災害があった時、一度立ち止まって読者と一緒に考えるというのはおもしろいし、そうできれば問題の本質を時間をかけて掘り起こすことができるかもしれない。

 

   ネットの発達で、時間に追われ、読者の喜びそうなニュースだけを追いかけ自ら消耗している大手メディアは、立ち止まってじっくり考えることを放棄してしまっている。こんなメディアがあったら、オレだって読みたくなる。

元木昌彦プロフィール
1945年11月24日生まれ/1990年11月「FRIDAY」編集長/1992年11月から97年まで「週刊現代」編集長/1999年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長/2007年2月から2008年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(現オーマイライフ)で、編集長、代表取締役社長を務める
現在(2008年10月)、「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催。編集プロデュース。

【著書】
編著「編集者の学校」(講談社)/「週刊誌編集長」(展望社)/「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社)/「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス)/「競馬必勝放浪記」(祥伝社新書)ほか

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