引きこもりの人を多額な費用で強引に部屋から連れ出す「引き出し屋」のトラブルが増えているという。西村綾子リポーターが耳慣れない「引き出し屋」の実態に迫った。
被害に遭った20代の女性が22日(2017年5月)、都内で会見を開き、「アパートに連れ込まれ、逃げようとしたら殴る、蹴る、箸で刺すなどの暴力を受けました」と「引き出し屋」と呼ばれる引きこもりの自立を支援するある団体を訴えた。
女性によると、ことの起こりは2年前の秋、家族間のトラブルから女性が母親を平手で叩いた。このため母親がインタ―ネットでこの団体を見つけ電話で相談したところ、団体の職員から「お金を残しても何もならない。娘さんの未来を買いましょう。家族の未来を買いましょう」とことば巧みに説得された。
女性は引きこもりではなかったが、母親は支援を期待し団体に570万円を支払い、契約を結んだ。
このあと女性が一人でいるタイミングを見計らって団体の職員8人が押し掛け、「お母さんに暴力をふるったよね、来て」「来れば両親と話ができる」などと話し、女性を強引に部屋から連れ出し団体が契約しているアパートに連れていった。
ところがアパートには両親の姿はなく、女性は団体の女性職員と共同生活を強いられ、監禁状態となった。「食事も3食与えられませんでした。逃げようとしたところ、携帯電話や財布などを没収され、殴る、蹴る、の暴力を受けた」。
さらに「もし逃亡すれば、逃亡を手伝った友達とその家族がどうなるか分からない」と脅されたこともあった。しかし3カ月が過ぎたころ女性は、監視が緩んだスキを見てアパートを逃げ出したという。
女性は今年4月、この団体を相手取り、母親が支払った570万円の債務不履行や自身が受けた苦痛に対し約1700万円の損害賠償を請求する訴訟を起こした。そこで西村リポーターがこの団体の代表に取材を申し入れたところ、「裁判以外の対応は控えさせていただく」と拒否された。
トラブル相談増える
引きこもりの自立を支援する青少年自立支援センターの河野久忠浄美理事によると、「引き出し屋」と呼ばれる団体は、もともと精神疾患の患者を病院に連れていく仕事をしていたのが、引きこもりの人を部屋から連れ出し自立支援をする仕事に進出するようになったという。
本来、引きこもりの自立支援は時間をかけて本人と話し合い、施設に入るよう説得するのが普通だが、「引き出し屋」と呼ばれる団体は、「ただ強制力を発揮して部屋から連れ出すだけ。570万円というのも常識では考えられない」という。
こうした乱暴な業者が横行する背景は、省庁の認可やサポートがなく国のガイドラインもないため、様々な業者が参入しやすい状態だからで、この「引き出し屋」に関するトラブル相談は国民生活センターにも寄せられ増加中という。
コメンテーターの湯川玲子(文筆業)は「今回は悪質ですね。何らかの形で行政が関与すべきですね」と指摘している。