月曜日(2017年5月15日)の夜だったと思う。週刊新潮編集部から電話がかってきた。若い女性で、週刊文春が新潮の中吊りを火曜日の午後に不正に入手していた件について、コメントをもらいたいというのである。
3時から友人たちと蕎麦屋で一杯飲んで、6時過ぎにオフィスへ戻ってウトウトしていたこともあるが、彼女が「そんなことが許されるのでしょうか」と息せき切っている訳がよくわからず、校了日の夕方に中吊りを手に入れて、それから取材しても、ろくな記事はできない。それに、私が編集長のときは、ライバル誌の週刊ポストの情報を手に入れようと、あらゆる手を尽くして集めたものだ。週刊誌も一企業と同じだから、ライバルの情報を探るのは当然の「企業努力」ではないか。
そう答えたものだから、当然ながら、新潮の当該の記事に私のコメントは入っていない。
週刊新潮は昨日(水曜日)の夕方、某週刊誌編集長から見せてもらった。「『文春砲』汚れた銃弾」というタイトルもすごいが、巻頭10ページ特集というのにも驚いた。
週刊新潮側の怒りはよく見て取れる。新聞もテレビも、平素週刊文春にしてやられているからか、大騒ぎしている。私はこの記事を2回読み直した。だが、識者といわれる大谷昭宏や佐藤優、中森明夫たちが、「ライバル誌の広告を抜く行為というのは、週刊誌という媒体にとって自殺行為」(大谷)などと非難しているのが、よくわからない。
その理由は後で触れるとして、週刊新潮を見てみよう。週刊新潮が、週刊文春側に情報が洩れているのではないかとの「疑念」を抱いたのは14年9月11号。新潮は朝日新聞の「慰安婦誤報」をめぐって、朝日で連載していた池上彰が「朝日は謝罪すべきだ」と書いた原稿を掲載しないとしたことで、連載引き上げを決めたという記事を掲載し、中吊りにもかなり大きく打った。
この週の週刊文春の中吊りは池上の件には触れていない。だが、新聞広告には「『池上彰』朝日連載中止へ『謝罪すべき』原稿を封殺」のタイトルがあり、「記事中の池上氏のコメントはわずか6行で、急遽差し挟まれたような不自然な印象を読む者に与えるのだ」(週刊新潮)
その上、週刊文春は校了日である火曜日の午後7時57分に「スクープ速報」としてこの記事をネット上にアップしたため、「それは週刊文春のスクープネタとしてまたたくまに拡散されたのだ」(同)
池上も、週刊新潮の取材に対して、週刊文春から電話があったのは週刊新潮の取材があった後で、校了日の午後5時半だったと話している。週刊文春の新谷学編集長は最近、『「週刊文春」編集長の仕事術』(ダイヤモンド社)という本を出しているが(彼が書いたとは思えないほど読みどころのない本だが)、その中でも、
「池上彰さんのコラムを朝日新聞が掲載拒否した件では、同日発売の週刊新潮も同様の記事を掲載していることがわかったので、校了日である火曜日の夜に『スクープ速報』を配信した」
と書き、その結果、「週刊文春デジタル」の会員が爆発的に増えたとしている。
漏洩ルート突き止める執念
そのほかにも、週刊文春に中吊りが流れている疑惑があると考えた週刊新潮は、週刊文春側に「不正を止めろ」と通告するのではなく、漏洩ルートを突き止めるための調査を続けた。
週刊新潮が誇る調査力で、漏洩しているのは新聞広告ではなく中吊り広告。週刊新潮の中吊り広告の画像データから、そのPDFファイルがコピーされたのは、週刊文春編集部にあるコピー機であることが判明した。
さらに、漏洩元はどこかを突き止めると、出版取次会社「トーハン」(東京)が、週刊文春の人間に渡していることがわかり、週刊文春の「雑誌営業部兼販売促進チーム」に属する30代の男性が、トーハンの人間から新潮の中吊り広告を受け取り、コンビニでそのコピーを取っているところを「激写」した。動かぬ証拠を手に入れた週刊新潮が、大々的に週刊文春の悪事を特集したというわけである。
週刊新潮に直撃された新谷編集長は、いつもの歯切れの良さはなく、「入手しているかどうかの事実関係も含めて、情報収集活動については一切お答えしていないので」「うーん......。ま、だからさ......(苦笑)。あー。......難しい問題だよな、これな。確かにな......」と要領を得ない。
たしかに佐藤優のいうように「中吊りを見て誌面を作るのは、道徳的に大きな問題が」あるのは間違いない。
だが、先ほども触れたが、週刊誌といえども編集部員の数からして中規模企業ぐらいはある。梶山季之が書いた『黒の試走車』ではないが、ライバルが何をやっているのか、どんな情報を持っているのかを探ることは雑誌の浮沈、そこで生活しているフリーの記者、筆者たちの生存にかかわるのだから、あらゆる手を尽くして情報を取ることが一方的に悪いといえるのだろうか。
新聞も昔は、抜いた抜かれたで一喜一憂したものである。ここで私が編集長時代の経験を話してみよう。
ヘアヌードのグラビアに対抗
こんなことがあった。ライバルの週刊ポストに大物女優のヘアヌード写真集が独占でグラビアに載ることが校了日にわかった。ネタ元は某印刷会社の人間。こういう時のために、その人間とは酒を飲み、ゴルフをやり、親交を深めていた。
週刊ポストも同じ印刷所だった。私は件の印刷所の人間に電話して、その写真集が手に入らないだろうかと頼んだ。何とかしましょうといってくれた。
数時間後、写真集が手に入った。だがその時間からグラビアに入れることはできない。写真集の版元との交渉もしなければならない。そこで考えた。活版の自社広告を2ページ落とし、見開きに写真集を開いて見ている(顔は出さない)人間を、後ろから撮った写真を大きく載せる。
キャプションには「○○女優のヘアヌード写真集が凄い話題!」。中吊り広告は間に合わないので、新聞広告を差し替えてもらって、左トップに「これが女優○○のヘアヌード写真集だ!」と特筆大書する。
当時、ライバルだが、週刊ポストの編集長とは気が合ってよく飲んだ。私より少し下で人柄の素晴らしい温厚な人物だった。その週末も、夜、2人で飲んだ。
人の悪い私は、週刊ポストの編集長に「あんたんとこ何かでっかいスクープでもあるんじゃないか?」。彼は「そんなのがあったらいいですけど、ないですよ」ととぼける。
翌週の月曜日、新聞広告を見た彼から怒りの電話がかかってくる。「元木さんひどいじゃないか」。私はこう答える。「怒るのはもっともだけど、こちらも普段から企業努力をしてきて、あんたんとこに大スクープが載るのを黙って見ているわけにはいかないんだよ」
彼とはしばらく会わなくなるが、そのうちまた銀座の場末のバーで飲むことになる。
彼は編集長を辞めて50歳の若さで亡くなってしまった。
「ライバルは憎さも憎し懐かしき」である。
週刊文春のやり方に違和感があるのは、自分のところのスクープでもないものを、速報として流してしまうことだろう。それはやってはいけない。
新聞社とは喧嘩した
私が現役中に一番腹が立って喧嘩したのは新聞社とだった。週刊現代は月曜発売なのに、新聞広告を自分のところで作り、新聞社に渡すのは、記憶では水曜日か木曜日午前中だったと思う。
なぜ、新聞社に事前に情報提供しなくてはいけないのか。新聞社から各方面に情報が流れていることはわかっているのだ。それに、自社の悪口を書かれていないかを見るのは事前検閲にあたる。セックスがだめでSEXがいい根拠を示せ。
週刊現代で朝日新聞のある「疑惑」をトップでやったら、朝日新聞は何の通告もなしに月曜日の朝刊で、大きく誌面を使って反論記事を載せたことがあった。
芸能人がツーショットを撮られると、雑誌の発売前に会見を開いてしまうのも、新聞広告の情報が流れるからである。
週刊新潮のいうように、フェアにやろうというのはその通りである。それに週刊新潮は週刊文春に部数でだいぶ差をつけられている。
だが、きれいごとだけでは情報戦争を生き抜いていけないことも事実である。新潮社はあまりデジタルに熱心ではないが、情報を取るだけではなく情報を流す方法も考えたほうがいいと思う。
北朝鮮とアメリカの緊張状態が続き、安倍首相の「お友達」たちへの便宜供与問題も広がりを見せている。週刊誌がやるべきことは多いはずだ。そっちへ週刊誌は力を注いでほしいと思うのだが。
フジテレビ不振の原因
ところでフジテレビが視聴率不振のため社長交代をした。新社長は73歳、それを取り仕切るドンの日枝久が80歳。
週刊現代でフジの幹部がこう話す。
「今回、社長人事と同時に役員人事も大きく変えるのですが、関係する役員などが次々に呼ばれた形です。日枝会長が一人ずつ部屋に入れて、人事を言い渡したんです。午後2時から午後6時過ぎまで、個人個人への通告が行われました。
日枝会長が亀山千広社長の更迭を含めて大きく役員を変えると決めたのは、テレビ東京に利益で負けたことが我慢ならなくなってきたからです。
最近もテレビ東京は視聴率が好調、一方うちは変わらず絶不調。そんな体たらくに甘んじている経営陣を見かねた日枝会長は今年に入って、『全部を変える、人材も全部刷新する』ということを役員の前で公言。人事刷新をぶち上げたんです」
宮内正喜新社長はフジテレビで専務まで務めたが、役員若返りの一環で関連会社の岡山放送に出される。
それが突如、15年になるとその宮内をBSフジ社長としてお台場に引き戻し、さらに昨年はフジMHDの取締役にまで抜擢したので、一部幹部の間では宮内次期トップもありうるといわれていたという。
日枝会長も当然ながら会長を引き、取締役相談役に退くが、そうおとなしくしているタマではない。
「日枝会長も、フジサンケイグループである産経新聞社の社長を『フジテレビから出したい』と言っていたことがある。相談役に退くことでむしろ自由に動けるようになった日枝氏が、これまで以上にグループ全体の人事に手を入れるようになる可能性もあります」(フジテレビ関係者)
年寄りがあまり出しゃばらないほうがいいと思う。先週、週刊新潮が安倍官邸御用達のジャーナリスト、山口敬之が「準強姦罪で逮捕寸前」だった過去があることを報じたが、週刊新潮によれば、山口がフェイスブックでこのことについて縷々弁明していたが、それに対して安倍昭恵が「いいね!」を押していると報じている。まだ懲りないようだね、昭恵さん。
フジは産経新聞グループだから、安倍のポチのようなジャーナリストが出るのは致し方ないが、今朝(5月18日)の時事通信・田崎史郎のコメントには開いた口がふさがらなかった。朝日新聞がスクープした、
「安倍晋三首相の知人が理事長を務める学校法人『加計(かけ)学園』(岡山市)が国家戦略特区に獣医学部を新設する計画について、文部科学省が、特区を担当する内閣府から『官邸の最高レベルが言っている』『総理のご意向だと聞いている』などと言われたとする記録を文書にしていたことがわかった」(5月17日付)
これについて田崎は概ねこういった。
「獣医学部は四国にはない。だが、獣医と文科省が抵抗していた。この文書は麻生が反対しているとあるから、おそらく本物だろう。だが、安倍が加計学園だけを優遇しようとしたことはない。規制緩和を進めている中でこうなった。
文書が流失したのは文科省関係者であることは確実。官邸では誰がリークしたのか特定している。その人はちょっと問題があって処分されちゃっているから、逆恨みしているんじゃないか」
官邸の代弁者である。山口もそうだが、こうした人間をテレビに出すフジの神経が、視聴率不振につながっているのだと、私は思う。
週刊文春は、週刊新潮の怒りに怯えたか、今週は読むべきものが少ない。やはり「とくダネ!」でキャスターを務める菊川怜の結婚相手、穐田誉輝に、婚外子が3人と先週報じたが、実は4人だったと今週報じている。MCの小倉智明は、「これってホント?」って聞けばいいのに。
週刊文春によれば、菊川は婚外子の件も全部知ったうえで結婚したというのだから。