NHKテレビの長寿番組「きょうの料理」の土井善晴さん(料理研究家)は「一汁一菜」を提唱する。「たくさんの人が献立を面倒だと思っているでしょう。おかずが悩みで負担になっていますが、一汁一菜は伝統的な日本の食事スタイルで、汁の具をたくさんにすれば漬物もいりません」という。
「きょうの料理」は土井さんの父の土井勝さんが60年前に始めた。高度成長期の真っ只中、核家族化が進み専業主婦が増えていた。勝さんは「おふくろの味」をキーワードに、手間ひまかけた食事を勧めた。「一汁三菜」「一汁四菜」と、1985年がピークだった。
ところが、翌86年の男女雇用機会均等法の成立で共働きが急増、専業主婦が激減して流れが変わった。視聴者からも「手間がかかりすぎ」と苦情も出るようになって、番組は「20分で晩御飯」を企画。便利な調理器具を活用するなどして、手間を省き時間短縮をはかる。20分が10分、7分と短くなって、とうとう「一汁一菜」というわけだ。
ちょっと高いけど調理も片付けもいらず
今や家族が揃う「共食」世帯は1割余という。これが「簡単食」が急速に進んでいる背景だ。「10分で調理できる」と人気の「料理キット」は、週50万世帯が利用している。宅配便で届くキットの食材はすべてカットされており、調味料も配合済み。3か月先まで献立が重ならない。
週5回の夕食用を月3万円で利用している埼玉の事務員、田中早紀さん(仮名)は、2時間かかる食事の準備は重荷だった。「これで解放されました。ちょっと割高かなとも思うが、買い物や献立を考えると妥当」という。味付けだけは「家庭の味」を守っているそうだ。
「簡単食」ブームに食品業界も反応した。「究極のパスタ」は見かけは普通のパスタだが、栄養素が31種類も配合され、1食で1日分の栄養を賄える。値段は通常のパスタの5倍だが、通販サイトで売り上げ1位になった。家電業界は週末に調理して作り置く流行に着目した。急速冷凍機能と大容量収納で冷蔵庫で鮮度を長く保てるようにした。食器も変わった。ご飯やおかずがすべてのるワンプレートで、洗いも楽になる。
1000万人ユーザー「1分料理動画」
しかし、簡単食が普及する一方で、手作りにこだわる人は6割というのが面白い。若い人たちにはレシピ写真をSNSに載せる人は多い。「ワンプレート」は盛り付けた姿が絵になるからか50万件。「一汁一菜」も1万件を超える。社会学者の品田知美さんによると、「インスタ映え」を競っているのだそうだ。
そんなサイトのなかで、1000万人のユーザーを獲得しているのが「1分料理動画」だ。どんなレシピであれ、動く絵と解説で示されれば、スマホを見ながらなんとかなる。3歳の娘のために「これで料理を会得した」という会社員の女性もいた。
武田慎一キャスターは「伝統の食文化はどうなるんでしょう」といったが、土井さんは「作る人が食文化を担ってる」「料理はやってればできるようになる」と語った。