2012年、5歳の時にインドで迷子になって家族と生き別れたまま養子に出され、オーストラリアで育った青年が、Google Earthを使って25年ぶりにわが家を見つけ出すというニュースが世界を驚嘆させた。
この実話をもとに『英国王のスピーチ』の製作陣が映画化。主人公のサルーを『スラムドッグ$ミリオネア』のデヴ・パテル、養母役をニコール・キッドマン、恋人役を『ドラゴン・タトゥーの女』や『キャロル』のルーニー・マーラが演じる。本年度アカデミー賞6部門ノミネート作品。
ニコール・キッドマンをはじめハリウッドでそれなりに高い評価を受けてきた大人の俳優陣の演技はさておき、5歳のサルー役を務めたムンバイ出身で実際に撮影当時は5歳だったという子役のサニー・パワールくんの演技力には目を見張った。じつにけなげで、じつに自然体。日頃からハリウッド映画なり、日本のテレビドラマなりで子役の演技には目が肥えている日本人が見ても素直に驚かされる演技なのである。〝歌って踊ってご陽気に♪〟の紋切り型のインド映画界に、このような繊細な演技ができる天才子役がいたとは...。出稼ぎ先で兄とはぐれ、迷い込んだ回送列車に閉じ込められたまま行きついたコルカタ(当時はカルカッタ)でスラム街に放り出され、数々の危険に遭う序盤は本当にハラハラさせられた。
Google Earthで故郷を探し当てる
一方、成人後のサルーが無意識に封印していたインドでの記憶をふとしたきっかけで思い出し、Google Earthを使って生まれ故郷を探し当てる物語中盤は、断片的な記憶の回想とパソコン上の地図とにらめっこするシーンの繰り返しが続いて、ややだれる。確かにこの物語のキーは「Google Earthで探した」ことにあるので、こういうシーンになってしまうのは仕方ないとはいえ、とにかくビジュアルが地味だ。さらに、育ての親に実の親探しを告白できないことに苦悩し、仕事も失い、恋人とも別れ・・・快活だった青年がいつの間にかヒゲボーボーのやさぐれた兄ちゃんになっており、それにも気分がどんより。
しかし、故郷は見つけてからの終盤の展開はテンポが戻り、感動的なシーンが待っているので、それまでちょっと辛抱して観てほしい。
とにかく実話がもとなので、始めから結果がわかってしまっている映画ではあるが、最後の最後で明かされる真実にはハッとさせられる。サルーを失った25年間をインドの生母や兄妹たちはどう過ごしてきたのか、なぜオーストラリア人の夫婦がわざわざインド人の子どもを引き取ったのか、そもそも映画のタイトルはなぜ『ライオン』なのか。
この映画は数奇な運命をたどったサルーの人生の物語であると同時に、彼を愛した家族一人ひとりの物語でもあったのだと気づかされる。
おススメ度☆☆☆
バード