「京都は古い寺や雅な花街だけではあらへんで~」。サクラが終わり新緑の始まった京都市内を颯爽と歩くタカラジェンヌ風の男装の麗人が今、京雀の噂になっている。その噂の真相を求めて大竹真リポーターが京都に出向いた。
まず年配のタクシードライバーに噂を尋ねると、ドンぴしゃり。「あ~、何回も見ましたよ。宝塚の女の人みたいな。北大路通りの高木町のバス停近くのラーメン店でよく見かけるね」。
早速そのラーメン店『塩見家とんとん』に行くと、塩見聡朗店長「もうじき来るのでは...」。そこで北大路通りをブラブラしていると、噂の人物らしい服装が颯爽とやってきた。胸元にキラキラ飾りのついた黒の燕尾服に蝶ネクタイ、日傘を差しタカラジェンヌ風のリーゼントの髪形にばっちりメークをした男装の麗人。
「こんにちわ~」と声をかけると、太い声で「はい」。「あなたが噂の?」に「はい」と言って差し出した名刺には『月城すみれ』とあった。年齢不詳、男性だという。さらに単刀直入に「何をしている人なんですか?」と聞くと「そこのラーメン店なんですが、この店の営業マンをやっています」。
ラーメン店の営業マンがなぜ宝塚歌劇の男装の麗人に扮しているのか? ギャップがあり過ぎてピンとこない。疑問をぶつけ、経歴を聞いてさらに驚いた。
元は理系の秀才
実は、すみれちゃんは神戸大学理学部物理学科卒業後、京都大学大学院の人間・環境学研究科で糖尿病のデータ解析の研究を行っていた理系の秀才だった。ところが、ある日、「コスプレとか女装が面白いバーがあって行ったら『あなた宝塚の男役みたいやな』と言われたんですよ。で、面白そうやからと軽いノリでやったらはまってしまった」という。
大学院での研究は断念。宝塚歌劇団を実際に観に行くなど、すっかりのめり込んでしまった。結局2年前にラーメン店の親会社に就職し現在、男装の麗人に扮し『春の宴会キャンペーン』のチラシ配りの真っ最中という。昔風に言えばサンドイッチマンなのだろうが、看板を掲げているわけではなく、颯爽と歩く姿はかっこいいしサマになっている。
ところで、このスタイルはラーメン店の強制ではなく、店も認めたすみれちゃんの趣味。したがって衣装(1着15万円)やメーク(月5万円)はすべて自前。燕尾服の襟のラインストーンはピンセットでつけ、メークは毎日2時間かけて仕上げるという。
来客は順調な伸び
すみれちゃんが入社する前の2014年のラーメン店の来客は月2100人だったのが、入社して営業を始めた15年は月2500人、16年には月3000人と順調に伸びている。塩見店長は「『今日はすみれちゃんいないの?』というマダムが結構来られるんですよね。かなり助けられています」。
ラーメン店の営業と男装の麗人とのギャップ。司会の加藤浩次は「店のチラシ配りのために女装しているわけではないんですよね~。もともとこういう人なんですよ」と納得していた。
重層的な歴史の中でさらに新しいものを積み上げていく京都に暮らす人たちの真骨頂。すみれちゃんの生きざまはその一つなのかもしれない。