「綱川社長が3月29日に記者会見を開きWH(原発メーカー、ウェスチングハウス)の破産法申請と同時に、その処理で赤字が最大一兆100億円になると発表。2年前だったらビックリしたかもしれないが、これまで数々の問題が起きて数千億円単位の損失などが明らかになったからだろう。危急存亡のときに立たされても、もはや驚愕しなくなった自分の感覚は、完全に麻痺している」
これは週刊新潮に掲載されている東芝30代社員の「トホホな転職活動日記」からの引用である。筆者は有名国立大学を出て、当時勝ち組中の勝ち組で旧財閥色も薄い自由な社風だと感じた東芝に入った。支社勤務を経て本社の企画部門に「栄転」した中堅社員で、独身。年収は700万円台だったが、ボーナスカットにより2年間で100万円近く減っているという。
日記では、次々に去っていく同僚がいるが、転職ができるのは引く手あまたの技術職で、彼のような企画畑では転職先もなかなか見つからないと悩みを綴っている。
1月には東芝京浜事業所品質保証部の社員が、水力発電機器の安全検査データをねつ造していたことが報道された。2月にはWHの幹部が、米国で建設中の原発を巡り、部下に建設費の圧縮を指示していたことが発覚し、原子力事業を統括する会長と、社内エネルギー部門のトップが退任した。
そのトップ、ダニエル社長が部下に出したメールが転送されてきた。それを読んだ彼はブチ切れる。
「"短い間でしたが、みなさんと一緒に仕事ができて幸せでした"と。ふざけるな。お前と志賀会長が"チャレンジ"と称して、部下に圧力をかけたんだろう。同僚の話では、ダニーの給与は億単位だとか。この泥棒猫!」
東芝の「暴走機関車」と経産官僚の思惑
東芝を倒産近くまで追い込んだのはWHを買収したことがきっかけだった。これは国策であり、東芝の「暴走機関車」と呼ばれていた原発事業担当者と経産官僚出身で資源エネルギー庁次長を経て現在、安倍の首相秘書官である今井尚哉が推し進めてきたはずだ。
その結果こんなことになったのだから、安倍も今井も説明責任を果たせと週刊文春が報じている。
筆者はジャーナリストの大西康之。彼はある東芝社員のビジネスダイアリーを入手した。これは東芝電力システム社の主席主監だった田窪昭寛のもので、東芝の原子力畑を歩み、06年のWH買収では現場を取り仕切っていた。
WHを手に入れた田窪は、東芝製原発の海外輸出という目的へと突っ走る過程で、やはり原発輸出事業を推進していた今井と接近していったという。
「特に、3・11以降、新規の原発受注にブレーキがかかる中、トルコやUAEのプロジェクトは東芝にとって、大きなビジネスチャンスだった。そこで、田窪氏はキーマンである今井氏に接近したのです」(田窪と今井の関係をよく知るA)
手帳には頻繁に今井の名前が出てくる。ディナーを一緒にしたり、帝国ホテルのフランス料理店で朝食を取りながら、田窪は今井の協力を得て、安倍首相に進言してもらったという。