マレーシアで殺害された北朝鮮の金正男氏の長男、ハンソル氏とみられる男性のメッセージビデオが昨日(2017年3月8日)、YouTubeに載った。「父は殺された」と述べており、謎の団体の支援を受けて、住んでいたマカオから他の国に移り住んだこともほのめかしている。新たな謎解きが始まった。
男性は、白い壁を背にして、英語で「私の名前はキム・ハンソルです。北朝鮮生まれで、キム一家の一員です」と話し出す。「これがパスポートです」とカメラに見せるが、ページの内容は黒く塗りつぶされていた。
続いて、「私の父は数日前に殺されました。今私は母と妹と一緒にいます。私たちは」と誰かの名前を挙げ、「とても感謝しています」といったが、名前を話している時の音声がなく、口元も黒塗りだった。名前を言っている時間は4秒近くもあり、国の名前か所属までいっているらしい。
「状況が好転することを願っています」と結んだが、全部で40秒足らず。
司会の夏目三久が「どこで撮影されたものかわかっていませんが、画面の右上を見ると、『千里馬民防衛』という文字が見えます。動画を公開した団体とみられます。誰が何のために」という。
キム・ハンソル氏の映像はいろいろあるが、2012年、17歳の時の映像ではメガネをかけ、耳にはピアスをしている。今回のビデオの男性はメガネなしで、ピアスも確認できない。しかし、非常に似ている。
法医学者の上野正彦氏は、両目と鼻の頭を結ぶ三角形の形などから「同一人物」と見る。韓国の国家情報院も同様に、「ハンソル氏本人」とみているという。
謎の団体が画像アップ
これをアップした「千里馬民防衛」という組織、最近作られたとみられるハングルのHPには、「北朝鮮の人々へ 脱出を求め情報を得たい方は、私たちがお守りします」とある。英語の記述もあり、「Cheollima Civil Defense」「JOIN US:」など記されている。
ところが、北朝鮮ウォッチャーの誰に聞いても「知らない」という。脱北者のカン・チョルファン氏も「知らない。(脱北者団体が)北朝鮮の人々にメッセージを送るのは極めて稀で、北朝鮮でも韓国の団体でもないのではないか」という。
HPの作りも巧妙で、メールアドレスが暗号化されていたり、ドメインも第三者の会社の名前になっていたり。追跡されない工夫がされていた。や所在に動画も、ハンソル氏のものだけで、HPそのものが、今回のためだけに作られた可能性があると、専門家は言う。
ハンソル氏は次の「標的」
ハンソル氏らが置かれた状況は微妙だ。昨年亡命した元北朝鮮駐英公使テ・ヨンホ氏は「金正恩の立場からは、キム・ハンソルも消えなければならない存在」という。次の「標的」であるのは間違いない。事件の後、マカオの自宅では家族の姿が見えなくなったと伝えられてはいた。
では、ハンソル氏らはいま、どこにいるのか。HPはハンソル氏らの脱出や所在についてはこれ以上公開しない、としているが、その後に、「一つの家族の人道的避難を後援したオランダ政府、中国政府、米政府とある匿名の政府に感謝を表す」とあった。
オランダは、駐韓大使が駐平壌大使も兼任していて、中立国として接している。また中国は、マカオからの脱出に関わった? では米の役割は? 匿名の国とは?
藤森祥平アナ「千里馬民防衛という団体を取材したのですが、返事はなかった。韓国のメディアは、匿名の政府は台湾で、ハンソル氏はすでに2月15日(正男氏殺害の2日後)台湾に渡っていると伝えています。事実かどうか」
夏目「危険を冒してまで、なぜ公開したのか?」
竹内薫(サイエンス作家)「4か国の名前を挙げているのが重要。今後北朝鮮がハンソル氏を殺そうとすると、これらの国と対立することになるぞと、けん制する狙いではないか」