低迷が続く日本マラソンの復活策を、箱根駅伝3連覇を達成した青山学院大の原晋監督に聞いた。早い段階から人材を見つけて個別指導することで徐々に距離をのばすという従来のやり方を変える必要を、原監督が生出演して力説した。
マラソンはかつて日本のお家芸といわれた。1980年代は瀬古利彦、宗兄弟などのランナーを輩出、バルセロナ五輪でメダルを獲得し、女子は2000年代に五輪2連覇も果たした。
しかし、この10年、記録更新は途絶え、五輪でも低迷する。2月の東京マラソンでも、上位は外国人選手ばかりだった。世界記録が伸び続け、2時間2分台に入ったが、日本記録は2002年に高岡寿成(現カネボウ陸上部監督)がつくった2時間6分16秒から更新されない。日本選手は2時間8分台がやっとという状態だ。原監督は「それを変えていきたい」「チャレンジする責任が青学にはある。まずはチャレンジする流れをつくりたい」と言う。
元マラソンランナーの増田明美さんは「新しい風が必要です」と、駅伝界の革命児ともいわれる原監督に期待を寄せる。その原監督は低迷の要因を3つあげた。
まず、組織体制。「Jリーグができて、身体能力の高い子がサッカーにいく」という。子どもたちをとりまく環境も変わった。「ケニアの子どもたちは6キロも走って通学する。日本ではスクールバスです。家ではファミコンが普及して、外で遊ばなくなった」
マラソンをイメージさせないトレーニングが増えたことも一因と、原監督は見る。今は5000、1万、20キロと距離をのばしていくが、「それがちがうのではないか」「若い頃から長く走れる選手は、早くそうしたらいい」「中途半端な流れが日本にあった」と話す。
増田さんは体幹を鍛える原流トレーニングに注目する。「青学の選手は走りがきれい。中心ができているから無駄がない」「体に負担がかからないため、あのスピードで距離に上手に移行している」と評価する。
20歳までに距離を経験させることが重要と原監督はいう。「サッカースクールの中で走り込むことも考えなければと思います。走る環境をつくる案も一つあるのかな」と考えている。
キャスターの杉浦友紀が「そうはいっても、駅伝とマラソンは距離が違います」と問いかけた。日本記録の高岡選手は距離を徐々にのばす方がいいという立場だそうだ。原監督にいわせると「そこは、個別の対応が必要」ということになる。体力があれば挑戦させ、なければ徐々に距離をのばす。
世界で通用する精神力を
なんだか当たり前みたいだが、学生のうちから世界で通用する精神力を鍛えるのも青学のやり方だ。ファンへの対応をつねに意識させる。「人に見られている中で平常心を身につける。プレッシャーで走れない子ではオリンピックの華やかな舞台で走れません」「箱根が最終目標ではない」と、原監督は強調する。学生の時からマラソンにチャレンジさせているそうだ。
部員の80%が寮で原監督も一緒に暮らすが、寮はもう一つある。「2寮」といい、伸びない選手や故障選手が入る。ハングリー精神を養う場だという。
3年の近藤修一郎君もそこの一人。能力はあるが積極性がないと見なして、原監督はあえて突き離した。近藤君は「悔しいが、やるしかないな」と思ったそうだ。この春までに結果を出さなければならなかった。練習で常にトップ集団で走るようになった。
2月の神奈川ハーフマラソンに青学からは28選手が参加した。近藤君はハイペースの展開にも先頭集団に食らいつき、62分台と目標を上回るタイムで4位に入った。原監督の評価は「やったやん、箱根の復路で使えるかな」と高かったが、同時に「100回に1回じゃダメだぞ」とあえて厳しい注文もした。
一貫教育の「ヒーローズ大作戦」
東京五輪までの道筋を杉浦キャスターが聞いた。
原監督は「まずヒーローズ大作戦です。高校、大学、社会人のカテゴリーをつくって一貫教育をします。大学までに2時間10分から15分台の選手をつくり、社会人でさらに磨きあげます。1年1分ずつちぢめていけばいい」「連携を取りながら選手を支えていきます」と言い切った。
そう描いたとおりにいくかどうかは、わからない。しかし、学生駅伝で確かな実績をつくった人気監督に頼るしか今のマラソン界にはないことも事実だ。税金から予算をかければいいというものでも、もちろんない。ここはまず、目を輝かして構想を語る名監督に期待しようか。
*クローズアップ現代+(2017年3月6日放送「2020へマラソン復活"大作戦"~青学大・原監督の挑戦~」)