金正男がマレーシアの空港で暗殺されて10日以上経つが、「マレーシア当局は身元確認を終えられていない」(2月24日のasahi.com)という。<殺害されたとされる正男氏の所持品から見つかった外交官用旅券の名前は、北朝鮮国籍の「キム・チョル」。記述通りなら、遺体は1970年6月10日に平壌で生まれた46歳の男性。実際の正男氏の年と言われる年齢より、1歳年上だ>
北朝鮮側が身元確認に必要な資料を出さないこともあるが、正男の家族からDNAサンプルが採取できていないようだ。マレーシア政府は金正男と発表しているが、捜査当局や医療当局は慎重で、認定を保留し、警察長官は「私は金正男という名前を一度も使っていない」と断定を避けている。
この原稿がアップされるときには身元が確認されているかもしれないから、そうなったらお許しいただきたいが、生前の正男には胸から腹にかけて虎と竜の入れ墨が黒々と彫られていた。それなのに、今回の亡くなる直前の彼のはみ出した腹に入れ墨らしきものがないと、フライデーが報じている。
半裸で入れ墨を見せているのは4年前の金正男だという。先のasahi.comにも本人確認のために<窮余の策として遺体にあった「入れ墨」の照合写真がないかも探し始めた>とあるから、たまたま地元の新聞が写したときに消えた(?)のかもしれないが、不可解である。
フライデーで北朝鮮情勢に詳しい朴一大阪市立大学大学院教授は、仮説としてだが、「殺されたのは正男氏の影武者の可能性があります」と推測している。いつもは必ず付けているというボディガードの姿もなく、空港の中を歩き回る正男はまったく無防備に見える。テレビ報道によると、行きつけの北朝鮮料理屋でも、壁を背にした席にしか座らなかったぐらい用心深かった正男にしては解せない行動である。もしかすると、この暗殺事件の闇は、われわれが考えているより深いのかもしれない。
海外メディアの物笑い「見つめあう安倍首相とトランプ」ツーショット
トランプ大統領がまた問題発言をした。ロイターの取材に対して、核兵器増強を明言したというのである。オバマ前大統領はロシアと新戦略兵器削減条約(新START)を締結し、両国が2018年2月までに配備済みの戦略核弾頭を1550発に削減することを定めたが、これをちゃぶ台返しするというのである。
オバマのやったことはほとんど気に入らないようだが、平気でウソをつくトランプのことだから、明日になれば考えが変わるかもしれない。
アメリカのメディアにならって、朝日新聞も政治家たちのその場限りの放言を「ファクトチェック(事実確認)」することを始めた。安倍首相や麻生副総理の発言の間違いをチェックしているが、一番チェックしなければいけないのは稲田防衛相の次の発言ではないか。
自衛隊が派遣されている南スーダンで去年起きた銃撃戦を「戦闘」ではないかと問われ、「法的意味の戦闘行為は発生してない」と答えたのだ。池上彰は朝日新聞の連載で、これは「オルタナティブ・ファクト(もうひとつの事実)」だとしているが、私は「フェイク(嘘)」だと思う。
週刊新潮は彼女のファッションセンスなどを取り上げ批判したが、今週も稲田防衛相を「ここ10年で一番ダメな防衛大臣だと思います」(軍事ジャーナリストの世良光弘)と難じている。護衛艦の中をハイヒールで歩き、網タイツを愛用することに対して、自衛隊関係者に「とても職責に相応しい格好とは・・・率直に言って気持ち悪い」とまでいわせている。
この程度の議員がポスト安倍だといわれるのだから、いかに自民党に人材がいないかわかろうというものだ。
気持ち悪いで、あの写真のことを思い出してしまった。トランプと安倍が会ったとき、握手して目と目で見つめ合っている写真をあなたは見ただろうか。気持ち悪いと思ったのは週刊ポストも同じだったようだ。週刊ポストによれば、世界のネットではこの「蜜月」ぶりが物笑いの種にされているという。米誌タイムスは「日本の首相はトランプ大統領の心をつかむ方法を教えてくれた。それは媚びへつらうことだ」と報じ、フランスのル・モンドは「フロリダの太陽の下でゴルフと気前のいい贈り物があれば、トランプを落とせるのか?」と疑問を投げかけている。
先日、オリバー・ストーン監督の「スノーデン」を観た。大筋はアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した「シチズンフォースノーデンの暴露」とほぼ同じで、彼の妻になる女性とのエピソードの部分が多くなっている。映画の出来としてはあまり感心しないが、この中でNSAの上司がスノーデンにいった言葉が心に残った。
「アメリカ国民は自由よりも安全を求めている」
いまや民主主義大国が資本主義に蹂躙され、貧富の格差が果てしなく広がり、明日の生活に怯える国民は増大している。それに加えて、9・11以降、テロへの恐怖が高まり、孤立主義への急流は「世界の警察」を任じていた同じ国とは思えないほどである。自由など制限されても安全、安心が欲しい。トランプのいうことは嘘八百、大ボラでも、自分たちの本音を代弁してくれている。それが危険な政権を生み出した原動力なのであろう。
同じことは日本でもいえる。寺島実郎は「シルバー・デモクラシー」(岩波新書)を書いたきっかけは、若者層はイギリスのEU離脱の国民投票、アメリカ大統領選で離脱反対、トランプよりヒラリーを支持したが、数で勝るシルバー層が逆の選択をしたことだという。
安倍自民党を支持しているのもシルバー世代である。<潜在不安(老後破産=筆者注)を抱える高齢者、とりわけ中間層から金持ち老人にかけての層、約二七〇〇万人が、金融資産、株式投資に最も敏感な層であり、「とにかく株が上がればめでたい」という心理を潜在させ、アベノミクス的『資産インフレ誘発政策』を支持する傾向を示すのである>(寺島)
今週の週刊ポストで触れているように、政府は高齢者、特に団塊世代を冷遇する医療費制度や年金改革に手を付けてきた。一方で不安感を掻き立て、一方で株高幻想をばらまく巧みな安倍の策略にまんまと乗せられているのである。
だが、団塊世代は全共闘時代を何らかの形でくぐり抜けてきた人間たちである。寺島はこう呼び掛ける。「われわれ戦後世代に課せられている役割は、戦後を生きた日本人として民主主義というものを確実に根付かせることであり、また、それをどうやって有効に機能させるかについて、真剣かつ行動的でなければならない」
高齢者たちよ、安倍自民党の持っているチューインガムやチョコレートを欲しがるのではなく、その裏に隠された「民衆を蔑視し、利用する意図」(寺島)を見抜き、真の民主主義はどういうものかを見せてやろうではないかというのだ。ベンサムの「最大多数の最大幸福」をいまこそ探求しようというのである。いや~、こういうのを読むと血が滾りますな。