イスラム圏7カ国からの入国を禁止したトランプ・大統領令の差し止めをめぐる攻防は、連邦控訴裁判所でなお続く。大統領は、最高裁まで戦うと強気だが、米のメディアはいま、ある男に目を向けている。トランプ大統領を裏から操っている黒幕だというのだ。
それが、ホワイトハウスの首席戦略官で上級顧問のスティーブン・バノン氏(63)。自らを映画「スターウォーズ」のダース・ベーダーに例える戦略家で、昨年(2016年)8月にトランプ陣営の選対のトップに就くと、支持率を急回復させ、トランプ大統領誕生の立役者になった人物だ。
「タイム」誌最新号は同氏の写真を表紙に乗せ、「THE GREAT MANIPULATOR」という特集を組んだ。操る人、小細工を弄する人という意味だ。グレートは、トランプ氏のスローガンをもじったものだろう。ニューヨーク・タイムズは、「バノン大統領?」とまで書いた。
首席戦略官、上級顧問にして国家安全保障会議常任メンバーの要職に
バノン氏は海軍出身で、ゴールドマン・サックス、ハリウッドの映画プロデューサーなどを経て、右翼系ニュースサイト「ブライトバート」のトップになった。サイトの内容は過激で、「太っている人は、恥をかかせれば痩せる」「5年から10年以内に南シナ海で戦争になる」といった調子。フェイクニュースもかなりある。
一昨年(2015年)、トランプ氏との対談で意気投合。トランプ氏が選対に引き込んで成功したのだが、「ブライトバート」が流したフェイク情報が選挙戦を左右したとも言われる。
在米ジャーナリストの町田智浩氏は、「トランプ氏はビジョンがないポピュリスト。政治思想はない。バノン氏は思想を持ってきてくれた人。ただ、バノン氏は、既存の社会システムを破壊するというが、どういう社会にするかは言っていない」という。トランプ氏がこのところよく使う「メディアは野党だ」のフレーズも、元はバノン氏が口にしたものだ。
バノン氏は、国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーに就いており、10日からの日米首脳会談にも同席するとみられている。
司会の夏目三久「かなり過激な言動の方ですね」
竹内薫(サイエンス作家)「山師なんです。会長を務めていた『ブライトバート』は、政治的なタブロイド紙のネット版ですね。フェイクニュースをどんどん発信して、大統領選では、正規のメディアより影響を与えたと言われている」
夏目「どうしてですか?」
竹内「人が信じちゃう。テレビも見ない新聞も読まない、ネットだけ、という人たちは信じる。そういう人が大統領の上級顧問、NSCのメンバーになってる。大変なことになりそう」
夏目「信頼も最も厚いと言われている」
安倍首相は10日、トランプ大統領と会談するが、フロリダ州パームビーチの別荘に招かれ、11日にはゴルフまでするという。トランプ大統領令に反対を表明しているヨーロッパの首脳たちの目にどう映るだろうか。