真実は二の次、自分が信じたい情報を発信・受信 ネット社会が作り出したトランプ大統領

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   トランプ米大統領が自らの主張をツイッターで発信し、そのつぶやきが連日、世界を揺さぶっている。感情的な言葉が大手メディアを介さずに、2000万人のフォロアーから世界中に拡散する。一方で、この大統領は「おまえはフェイク(うそつき)ニュースだ」と自分を批判するメディアを露骨に敵視し、恥じることもない。何がウソで何が真実なのかが米国を中心に混乱する時代を、特集シリーズでひも解いた。

   トランプ氏が言い放つ。「メディアは地球上で最もいい加減なやつらだ」。大統領選で不正投票が行われたと言い張る根拠がないと追及された、12月25日(2016年)米国ABCテレビの映像だ。その主張こそ明らかにウソで不適切ではないかとインタビュアーに質されても、「大事なのは何百万人もが私の考えに同意してくれることだ」と平然とうそぶいた。

   フェイクニュース・にせの情報が今、ネットにあふれている。米大統領選挙期間中から「ローマ法王もトランプ氏を支持」「クリントン氏を調べるFBI捜査官が無理心中した」などだ。2016年12月には「クリントン氏が児童売春組織に関与した」というウソを信じた男が拠点とされたレストランを襲う銃撃事件まで引き起こした。

   司会の鎌倉千秋アナが「米国はどうなっていくのですか」と半分あきれ顔で問いかける。

   デーブ・スペクター(日本で活躍する米国人タレント)「前ならパロディーだった。もうそれではすまされない。恐ろしいことになっている」

   池上彰氏(ジャーナリスト)は「Post-truth」というキーワードを持ち出した。英語圏で2016年から流行語になっている「真実は二の次」ということだ。

すべてウソのニュースを流し続ける中年男

   フェイクニュースの発信者が取材に応じた。マルコ・チャコンという中年男で、3年前から発信した数百件すべてがウソで、今では1本に2万回以上のアクセスがあり、数万アクセスの記録もあるという。「大統領選の時は明らかにバカみたいなのを載せたら、保守層は半信半疑で揺れた。それを狙った」「何が正しいかなんて彼らは気にしない。この流れを止める方法はない。そういう時代だ」と自慢そうに語った。

   米国東部ニュージャージー州の女性(38)は、普段は新聞やテレビを見ず、スマホだけが唯一の情報源だ。自分が好む情報だけをとるように設定している。「自分と違う意見を聞くことはほとんどありません。他の人も同じじゃないの」という。

   人は真実が何かよりも、信じたいニュースだけを信じるようになる。「友人からきた話には疑いを持たなくなる。人はフェイクニュースの被害者にも加害者にもなる」と、インディアナ大学のメンツァー教授は警告する。フェイクニュースは今も日々、ネットに広がる。

鎌倉アナ「社会に蔓延すると、どういう影響が?」

   池上氏は「権力者はこれまでも事実をいいように換えることをやってきたが、トランプ大統領はウソを平然と主張する」と見る。ウソを事実と見せかける「オルタナティブ・ファクト(別の事実)」が一人歩きする。

   そのトランプ大統領は6日(2017年2月)朝にもツイッターに「私に否定的なメディアはすべてフェイクニュースだ」と投稿した。法政大の藤代裕之准教授は「ニュースの流れが変わってしまった。発信者と拡散者はべつにいて、真実が見えにくいネットの仕組みがある」と分析した。

   米国人を対象にした調査では、拡散させたことがある人が23%に達した。

デーブ・スペクター「よく考えないで送信してから、あとでウソっぽいなと思う。情報が慌ただしく錯綜し、回転ずし状態。確認していない」

   訂正の問題もある。新聞やテレビメディアは誤報にははっきりと「訂正」を出すが、ネットではほとんどが更新するだけで、誤報だったとわからない。こんな情報受け手側の状態を、偏った情報の泡に囲まれた「フィルターバブル」とよぶそうだ。

   ブログのアルゴリズムという仕組みで「いいね」をした情報や普段よく見る情報ばかりが表示される点も問題だ。人はいつの間にかフィルターバブルの中で正しいと思い込む。

   2016年12月の、ドイツ・ドルトムントの地方紙にいるペーター・バンダーマン記者は大みそかの賑わいを取材した。広場に1000人ほどが集まり、中には中東から来た人も年越しを楽しむ姿を動画に撮った。花火が教会の工事ネットを焼き、10分ほどで消えた。よくあることで、例年と変わらない年越し風景を配信した。

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