サケに続いてスルメイカが記録的な不漁になっている。資源量の減少などが背景に挙げられているが、ならば「海でとる漁業」から不可能と思われる「陸でつくる漁業」に転換しようという試みが成功し軌道に乗り始めている。
挑戦しているのは岡山理科大学工学部バイオ・応用化学の山本俊政准教授ら。取材した玉川徹(テレビ朝日ディレクター)が「そもそも総研」のコーナーでその成果を伝えた。
この「陸でつくる漁業」の最大のポイントは、海水に変わる水の確保。山本淳教授らは4年の歳月をかけて海水魚、淡水魚がともに生命を維持し棲息できる「好適環境水」をつくり出したという。岡山理科大の実験棟の水槽では、実際に金魚とタイやヒラメが一緒の水槽で元気に泳いでいる。一体どういうことなのか?
海水、淡水の欠点を解消
山本准教授によると、実はマダイやヒラメの体液の塩分濃度は1%。ところが海水の塩分濃度は3.5%もあり、海水魚は常に浸透圧に対するストレスを受け、成長がさまたげられている。一方、淡水は淡水魚の成長にとって欠かせない主要成分が少ないという欠点がある。
そこで、海水が60種類のミネラルで構成されている中から生命維持に必要なものをナトリウム、カリウム、カルシウムと特定し、塩分濃度を調整して真水に溶かした状態で作られたのが「好適環境水」という。
いいことずくめの「好適環境水」
山本准教授は、まず第一に、海水魚も淡水魚も生育が早い点を挙げる。岡山理科大では、トラフグの養殖に成功(2011年出荷)、続いてヒラメ、ウナギ、クエ、クロマグロを出荷している。現在、力を入れているのはブラックタイガーの出荷。ブラックタイガーはわずか4カ月で35グラムに成長、1年間で「3毛作」ができるほど生産性が高いという。
第二は、生食ができる魚が増えること。寄生虫がいるエサを食べるサケやブラックタイガーは生食できないが、「好適環境水」で養殖された魚は生食ができる。
第三は、コストが海水養殖よりもかからないこと。海水養殖は台風や津波、海水汚染、魚病などのリスクが高く生産が不安定だが、「陸でつくる漁業」は人間管理で安定生産ができる。トラフグの単位面積当たりの生産性は海水養殖に比べ5倍~10倍という。
では、陸で養殖された魚の味はどうか? 玉川が岡山市内の料理店で調理したシロサケの刺身とブラックタイガーの生食に挑戦した。
結果、シロサケの刺身は「歯ごたえがしっかりし脂もきっちりのっていて非常に上品なブリに似ている」。ブラックタイガーの生食は「すごい歯ごたえで美味しいです。これは東京で売れますよ」だった。
地球の人口が100億人を超えると言われている10年~20年先には、海で獲れる魚にとってかわり休耕田でつくられた魚が主流になっているかもしれない。