本当に必要なサービスとは? 過剰さ見直す企業も

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   留守なら何度でも再配達してくれる宅配便、顧客がいなくても24時間営業が当たり前のコンビニ、ファミレス...。至れり尽くせりのおもてなしの裏で、従業員たちには負担が重くのしかかり、ヘトヘト、イライラが募る。「お客様は神様です」は本当にそうなのか?「そこまでサービスの必要があるのか?」「無駄が多くて生産性が低い」という声も出ている。

   そうした中で従業員の負担を軽減しサービスの質を高める改革に着手している企業も出てきた。そこで番組では過剰サービスの見直しを始めた最前線の現場を追った。

元旦、2日を連休にした「三越伊勢丹」の狙い

   元旦の都心の盛り場。相変わらず初売りの福袋を目当てに百貨店の前に長蛇の列。元旦だけで10億円を売り上げる店もあるという。ところが売り上げ日本一の老舗百貨店「三越伊勢丹」は昨年から元旦、2日を2連休にした。稼ぎ時の正月を一体なぜ2連休にしたのか?

   三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長は「今までと同じやり方をしたら生き残っていけない。おもてなしがどれだけ精度高くできるかにかかっている。そのためにはスタイリスト(店員)が最高の環境で最高の体調で接客するのが、ものすごく重要」とその狙いを説く。

   そこで社員たちが考えたのは、ネット通販では真似のできない柔軟な接客。例えば、ウエディングドレスに憧れる女児に本物のティアラを試着させるなど百貨店ならではの体験を顧客に提供することだった。結果、年明け3日からの売り上げは順調に伸び2連休分をすぐに取り戻したという。

   他社がやっているから同質サービスは外せないという横並び感覚。それが高じた結果過剰サービスに陥っている現状を見直す動きが出始めたと言える。

   ゲスト出演した厚切りジェイソン(米国出身タレントでIT企業役員)もこう指摘する。「日本人は働き過ぎ。ほんとうに正月に出かけないといけないのかとか、そういうニーズがあるのかどうか確認しないまま皆でそういうサービスをするのはちょっとやり過ぎかな」。

   では、顧客にとって必要な本当のサービスとは何か?

誤って使われてきた「お客様は神様です」

   番組が取り上げたのは「お客様は神様です」という言葉。伊藤敏恵キャスターが「神様であるお客様の求めなら何でも応えればそれでいいのでしょうか」と疑問を呈した。

   この言葉は歌手の三波春夫がステージ上で無の境地になるために使った言葉だという。三波春夫の長女、美夕紀さんによると、「父が生きていた時から『お客様は神様です』という言葉の誤用はあったのですよ。ずーとなんです。違う使われ方がされているんだなと...」。

クレームに振り回される食品業界

   その誤用が消費者の間に高じたあげく顧客との関係をめぐり揺れ動いてきたのが、異物混入問題で悩まされてきた食品業界。企業イメージ悪化を恐れ1匹の虫の混入のために、虫が混入していない商品まで大量に回収せざるを得ないのが現状だ。

   年間200件ほどの異物混入の苦情が届く弁当用のミートボールを製造する千葉県の会社。ある日「3センチほどのビニールのようなものが出てきた」という苦情があった。調べたらタマネギ片で、実は苦情の半数はこうした健康に心配のないものだという。

   こうした苦情に振り回されて企業はやっていけるのかどうか。

   伊藤キャスター「こうなると消費者側の意識も考え直さないといけない部分がありそうですね」に、ゲスト出演した学習院大学の伊藤元重教授は「消費者が本当に神様になっちゃって、よく店で怒鳴っている人がいる。こういうのが許される雰囲気はよくないですよ。消費者も考えないといけない」。

   さらに伊藤教授は次のように指摘する。

「一生懸命サービスをやろうとすること自身は日本の良い伝統だと思う。それを本当の方向に向けてほしい。サービスは人と人の触れ合いが非常に重要で、人手不足の中で無駄なサービスをやっていれば企業として成り立たなくなる。本当にお客様が何を求めているかということが分かれば、そこからいろんな、新しい意味のあるサービスが出てくると思います」

   人手不足のサービス業界。本当の「サービス」とは何かを企業と共に消費者も考え直す時機にきているのだろう。

文 モンブラン

*NHKクローズアップ現代(2017年1月25日放送「これって"過剰"?   ニッポンのサービスが変わる」)

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