第45代のアメリカ大統領に就任したドナルド・トランプ氏は、これまでツイッターで叫んできた『政策』をそのまま実施するのだろうか。自動車メーカーのフォードやトヨタに脅しをかけているが、双日総研チーフエコノミストの吉崎達彦さんは「政治的パフォーマンス。アメリカの労働人口は1億4000万人で製造業は1200万人だから、雇用が1000人、2000人増えてもダメ。政策としては成り立たない」という。
「10兆ドル減税」と「インフラ投資1兆ドル」は矛盾をはらむ。政策アナリストの横江公美さんは「できない事をやるかもしれないと思わせるのがトランプ氏の真骨頂。ビジネスマンのやりかたで、俺はできると思い込ませて突破口を開くやり方」という。
シリコンバレーのインド人社長「就労ビザを廃止ならカナダへ移転」
「不法移民」では「ビザを徹底調査する」など山ほどしゃべっている。これに不安を抱くのは建設業界だ。ニューメキシコの建設会社の社長は「現場労働者の9割がメキシコなどからの移民。不法も少なくない。彼らなしには住宅建設はできない。移民が減れば、住宅価格は上がり、建設は減る」という。インフラ投資でも多数の労働者が必要になる。不法移民を排除したら、どう労働者を確保するのかという声もあった。
シリコンバレーの成長は世界中から高度の技術、才能を受け入れた結果だ。人工知能開発会社のインド人社長は、「一部の就労ビザを廃止すると、成長の足かせになる。もしダメなら、カナダへの移転も考えないと」と話す。吉崎さんは「トランプ氏はブルーカラー、製造業を守りたいという方向です。古いエコノミーを守って新しいエコノミーと対抗する不思議な図式で、全体でいいかどうかがよくわかっていない」という。
「対ロ接近」「中国敵対」外交もビジネス感覚で駆け引き
外交ではロシアのプーチン大統領に好意的なエッセージを送っている。「プーチンがトランプを好きだというなら、弱味ではなく強味だ。仲良くなれるかどうかわからないが、そうなりたいね」
米ロ関係は3年前のロシアのクリミア併合で冷戦後最悪とも言われる。しかし、トランプ氏は国務長官にエクソンモービルの前CEO、レックス・ティラーソン氏を充てた。長年ロシアで石油開発に携わって、プーチン大統領から勲章も受けている経営者だ。この人事をエクソンモービルのロシア通は、「石油の仕事には誠実さと同時に脅す能力も要る。トランプ氏はティラーソン氏の交渉力に目をつけたのではないか。アメリカの政策は現実的なものになるだろう」と語っている。
一方、中国に対しては厳しい。台湾の蔡英文総統との電話会談は断交以来38年ぶりの「米台トップ対話」だった。中国が反発すると「台湾に何十億ドルも武器を売っているのに、(当選の)お祝いの電話を受けちゃいけないなんて面白いことをいう。南シナ海に巨大施設を作っていいかと、われわれに聞いてきたか?」と言い返した。
トランプ氏を支えるシンクタンク、ヘリテージ財団のウォルター・ローマン氏は「トランプ氏の交渉術だ」という。「一つの中国」を問い直すことで揺さぶりをかけ、安全保障と経済の両面で最も有利な条件を引き出そうとしているのだという。ただ、横江さんによると「絶対にぶつかることはしない」とワシントンは読んでいるそうだ。
この中国との軋轢は、やがて日本にも影響する。横江さんは「アメリカ・ファーストの中での日米同盟の意味を見ないといけない」。吉崎さんは「慌てる必要はないが、選択肢を広げていく必要がある」と指摘した。