100万人突破した「この世界の片隅に」 舞台の広島・呉が新名所に

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   原爆投下前後の広島を描いたアニメ映画「この世界の片隅に」の観客が100万 人を突破、興行収入も13億円を超えた。戦争の時代の庶民の日常を描いた地味な作品。派手な宣伝もなく、上映館も少なかったのに、SNSやホントの口コミで広がったのだという。にしても、なぜ?

   先週発表されたキネマ旬報の2016ベストテンでも、話題の「シン・ゴジラ」「君の名は。」などを抑えて日本映画の1位。アニメでは「となりのトトロ」以来28年ぶりという快挙だった。初め、上映は63館だったが、今は190館と3倍。これまた珍しいという。ちなみに「君の名は。」は300館だ。

   戦争がテーマなのに、観客は若い人から年配者まで幅広い。「見るたびにいろいろ見えてきて」と7回観たという20代の男性もいた。

   「戦時中の日常生活が身近に感じられた」「日常生活を見せることで戦争が身近になる」「戦争って重いものだと思っていたのに」というのが共通の言葉だ。

徹底した時代考証で当時の空気あらわす

   原作は広島出身の漫画家、こうの史代さんの漫画だ。呉に嫁いできた主人公「すず」を取り巻く平和な日常が、否応なく戦争に巻き込まれていくさまを描く。監督の片渕須直さん(56)が、徹底的な時代考証を重ねて、これに肉付けをした。「空気感を表現したかった」。これが功を奏した。

   食糧難の中、食用になる雑草を加えてカサを増やす工夫や、和服をモンペに作り変える方法などが丁寧に描かれた。観客の大半は、もはや戦争も知らず、食糧難も物資の不足も知らない。原作者も監督自身も戦争を知らない世代だが、入念な時代考証で、観客にもすんなりとのみ込めたらしい。

   自らは疎開していて助かった濱井徳三さん(82)の実家は、爆心地近くの理髪店で、両親と兄、姉を原爆で亡くした。その理髪店が、わずか4秒だが映画に出てきた。両親と兄、姉がいる。「みんな生き返してくれた」と濱井さん。

「タイムマシーンのような映画」と監督

   片渕監督は、「すずさんと一緒に体験して、時代を感じとってもらえたら。タイムマシーンですずさんの横に立ってもらう映画だと思います」という。

   今、映画に出てきた場所を訪ねて、呉を訪れる人が増えたという。観光案内所も、「片隅に」のロケ地マップを作っている。呉に住んでいるが、地図を頼りに街を歩くという家族もいた。

   都内の広島アンテナショップでは、映画とコラボした日本酒の「千福」が品切れ状態になった。「この世界の片隅に」のタイトルと主人公すずのイラストがラベルになっているのだが、発売当初は月に10本程度だったものが、100本以上になって、製造が間に合わない状態だという。

   映画を観たという加藤浩次。「日常を描いている分、戦争の怖さというのがすごい伝わってくる。それと、すずさんの声をやったのんさんがすげぇ」

文   ヤンヤン| 似顔絵 池田マコト
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