アニメ「この世界の片隅に」異例の大ヒット 時代を超える平和への祈り

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   原爆投下前後の広島を描いたアニメ「この世界の片隅に」が、観客動員100万人に迫っている。10日(2017年1月)発表された2016キネマ旬報ベストテンでも、「シン・ゴジラ」「君の名は」などの話題作を抑えて1位になった。アニメの1位は、「となりのトトロ」以来28年ぶりの快挙だ。何が人々を捉えたのか。

   原作は広島出身のこうの史代さんの漫画。戦時中、呉に嫁いだ主人公すずの何気ない日常に忍び寄る戦争の影。食料、物資の不足も工夫で切り抜け、空襲、原爆投下も時代も乗り越えて明るく生きる人たちを淡々と描く。これが、戦争を遠いものと思っていた、老若男女の心を捉えたらしい。

   特に若い世代。「時代がつながっている」(40代男)、「戦時中の話だけれど、私たちが今につなげられる」(20代女)、「生きる時代が違うだけで、一緒なんだと思った」(20代男)、「特別な存在ではなかったんですね」(20代女)

   声ですずを演じた女優ののんさんも、「時代は違っても、喜びや悲しみは一緒」と、自分たちと重ねて考えるようになったという。

   こうのさんは、「昔の人は愚かだったから戦争をしたと思われている。でも、祖父母は馬鹿ではなかったし、彼らなりに幸せをつかもうとしていた。その生のきらめきや悲しみを込めたかった」という。

徹底的に時代考証、リアリティー追求

   片渕須直監督は、徹底的に時代考証を重ねて、原作にリアリティーを加えた。天気から空襲の記録、モンペの作り方、食糧不足でカサを増やす「楠公飯」まで。料理は実際に作って食べた。それが作品に投影され、戦時下の生活を生き生きと再現させた。

   監督は「たまたま戦争だったというだけで、われわれと変わらない。そこから時代を見つめ直す新しい感触をつかめるのではないかと思った」という。

   企画は6年前、ゼロからのスタートだった。ネットで一般から小口の資金を募る「クラウド・ファンディング」を採ったところ、原作に共感した人、広島、長崎からの連帯で、7000人から7000万円を超える資金が集まった。

   1万800円を出資した塗本悟史さんは、祖母から呉での戦争体験を繰返し聞いていた。映画が出来上がった今、「将来この映画で、今1歳の娘に(戦争を)伝えることができる」という。寄せられる賞賛の言葉に共通する思いのようだ。

   映画作家の大林千茱萸さんは、「今の映画は、CGとか合成とかですごくリアルだけど、『片隅』を丁寧に描くことで見えてくるものがある。それが素晴らしい。共感につながったのだと思う」という。また、声優で出演した松竹新喜劇代表の渋谷天外さんも、「普遍的なものを描いて、裏にある怖さを伝えている」と。

「語り部」にも影響与える

   映画はまた、原爆の記憶の風化に直面する広島の「語り部」たちへのインパクトにもなった。原爆資料館の体験伝承者渡辺公友さんは、「『片隅』の臨場感が心にしみる。世代を超える可能性を示してくれた」という。

   被爆二世で、原爆ドキュメンタリー上映を続けてきた友川千寿美さんは、生の記録が敬遠される事態に直面していた。「片隅」を見て、「(戦争、平和、原爆の)直接の記録は逆効果もあるのか。こういう伝え方もあるんだな」と感じているという。

   大林さんは、「終わらない映画。70年80年語り続けて、古典になってほしい」といった。ちょっと待って。私(筆者=ヤンヤン)は、小学2年生で終戦を迎え、空襲も体験した世代だ。ひとつ違和感があった。賞賛の声が異口同音に言う、「今の時代と同じなんだ」という言葉だ。「では、違うと思ってたの?」と聞きたくなる。それほどまでに、戦争は遠いものなの?   と。

   ある意味、愕然とする。原爆の記録映画は敬遠しながら、フィクションに共感して、新たな古典になってほしい?   「違うよ」と言っても通じないのだろう。だとしたら、仕方がない。安倍晋三氏にこの映画を見てもらうとするか。彼もれっきとした戦後生まれである。

ヤンヤン

クローズアップ現代+(1月12日放送 「"この世界の片隅に"時代を超える平和への祈り」)

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