国内で推計2000万匹が飼われているといわれる犬や猫のペットに遺伝性の不治の病の存在が浮上してきた。全身の麻痺や失明、難聴で治療薬がなく死に至るものも多い。
背景にあるのがペットブームによる無理な繁殖がある。需要に応えようと繁殖を短期間に繰り返し、珍種を求める傾向のある飼い主に応えて間違った掛け合わせを行い病気のリスクのある遺伝子が拡散しているとみられている。ペットに広がる遺伝子病の闇の実態を追った。
コーギーに多い『変性性脊髄症』
車イスが欠かせなくなったペットの犬の飼い主が交流を深めるため集まる会がある。車イスに乗せられ連れてこられた犬は、なぜかコーギー(イギリス原産の犬種の一つ)ばかり。もともと異常はなかったのだが、飼い始めて10年ほどで麻痺が全身に広がったという。
病名は『変性性脊髄症』。生まれつき遺伝子に異常がある病気で、無作為に調査したところコーギーの9割以上に遺伝子の異常が見つかっている。治療法はなく発症してからの寿命は3年ほど。最後は麻痺が心臓に達し死亡する。
胴長短足でずんぐりした体形で愛らしい表情が人気のコーギーが、日本で人気が出たのは90年代後半。テレビCMがきっかけで爆発的な人気が起き、年間2万匹以上が繁殖された。病気の遺伝子を持つ犬同士を掛け合わせ繁殖すれば病気リスクを持つ遺伝子の犬が拡散していく。
変性性脊髄症の研究をしている岐阜大学応用生物科学部の神志那弘明准教授は「人気が出て、たくさんの犬を繁殖に使った背景がこの病気の多い理由の一つと思う」と話す。
番組が取材を進めると、他の犬種にも遺伝子病のリスクが高いことを知りながら繁殖されるペットがいることが分かった。
白のダックスフントをつくる無理
犬の保護活動をしている女性は現在、珍しい色のダックスフント2匹を引き取って飼育している。2匹とも真っ白な毛の『ダブルダップル』と呼ばれる遺伝性の目の病気で、一匹は完全に失明している。
ダックスフントはもともと茶や黒の毛を基調とした犬だが、愛好家の好みに応じて様々なカラーがつくられてきた。中でも真っ白な毛は珍しく一時、珍重されたほどだ。
ところがダックスフントに白が現れるのは、突然変異によって色素がつくれなくなる「マール」という遺伝子を持つ犬で、目や耳に障害が現れる確率が高い。障害のリスクが高いにもかかわらず珍重を好む飼い主の求めに応じ繁殖が繰り返されたという。
トイプードルに多い失明
鎌倉千秋キャスターは「遺伝病はこれ以外の人気犬や猫にも数多く存在しています。今一番人気の犬のトイプードルに多いのは失明。また猫で一番人気のスコティッシュフォールドは折れ曲がった耳が大人気なんですが、実はこの折れた耳自体が骨の異常ということなんです。遺伝病のことを私たちはあまりに知らずにいます」と嘆く。
結局、無知な飼い主の要望に応えブリーダーが大量に繁殖させ、ペットショップが大量に販売する仕組みに問題がある。獣医師も「この仕組みが病気の動物を市場に出回りやすくしている」と指摘する。
では、どうすれば遺伝病に苦しむペットを増やさないで済むか?
ゲスト出演した目の見えないミニチュアダックスを飼っている映画監督の森達也は次のような指摘をした。
「市場原理に対して僕たち飼う側がどう対抗するか、一人ひとりリテラシーを持つこと、つまり賢くなることですね。何より流行に過熱しない。みんなが飼うから私も飼う。それがどうも強い国。そこの意識を少し脱すればペットに対しての見方も、飼い方も、付き合い方もずいぶん変わるんじゃないでしょうか」
ペットブームが高じ、知らぬ間にペットの間で遺伝病が拡大する。ブリーダー、ペットショップ、飼い主が一緒になって作り出している遺伝病の闇をなくさないとペットが可哀想だ。
モンブラン
*クローズアップ現代+(1月11日放送「あなたのペットは大丈夫!?~追跡 ペットビジネス、遺伝病の闇~」)