JR博多駅近くで起きた道路の陥没は、地下鉄延伸工事のトンネルの拡幅工事が原因だったが、その危険性を多くの専門家は指摘していた。トンネルは岩盤に掘られていたが、天井から1メートル上には崩れやすい地層があった。この地域に多い風化した地層だ。その上に地下水の層がある。「工事で岩盤に傷をつけると危ない」と技術専門家委員会の議事録にあった。
委員の1人だった九州大の三谷泰浩教授によると、現場は下水、ガス、水道などのライフラインが多く、薬剤注入で人工的に地下水を遮断する地層を作る工法は多く採用できず、地下鉄のトンネル部分だけ深くするのも困難だった。トンネルの天井を低くする案しかなかったが、議事録には「探りながら施工」「挑戦する」などとある。ここまでわかっていながら事故は防げなかった。「技術者としてはじくじたるものがある」と三谷教授は言う。
ライフライン、地下鉄、ビル再開発で地盤グチャグチャ
東京都市大学の宇都正哲教授は「全国どこでも起こりうる。ライフラインは大都市でも地方でも道路の下に集中しているからだ」と指摘する。博多の事故現場も、10を超えるライフラインがひしめいていた。大正、昭和、平成と都市の発展とともに埋設されてきた網の目にさらに地下鉄だった。
国土交通省の調べでは、全国の陥没事故は147市町村、3300か所に及ぶという。八王子では車が幅80センチの穴にはまった。大阪・豊中では1歳の娘を抱いた母親が歩道の穴に転落してけがをした。東京・北区では77歳の男性が転落した。東京では専門業者が毎日、特殊車両で点検して歩いている。昨年(2015年)だけで230か所以上の道路下の空洞を見つけた。
空洞ができるメカニズムを東京大生産技術研究所の桑野玲子教授は「老朽化した下水管の亀裂」だという。破損部は水と土砂の通り道になり、土が緩み、連鎖が起こって陥没に至る。古い下水管は取り替えられるが、その工事がまた新たな陥没のリスクにもなる。道路下にはさまざまなインフラがある。埋め戻すときに固く土を固める作業がしにくくなって、そこに新たな空洞ができるというのだ。東京都の研究所の調査では、空洞ができる原因の28%が「老朽下水管」だが、「工事の埋め戻し」は46%にもなる。
日本の下水の総延長は46万キロ(地球11周)。耐用年数の50年を超えるものが2%あり、これが10年後には10%、20年後には30%になる。2%で陥没が3300件だから、20年後には5万件の計算である。
国交省やっと政府・自治体・民間のデータ一元化
近年、地下開発はますます深くなっている。道路のすぐ下に生活インフラ、その下に道路や地下鉄、さらに下に巨大貯水槽やリニア新幹線(名古屋)がある。深くなると地下水の水圧も上がり、事故のリスクも上がる。名古屋・西区で起きた陥没は地下30メートルで起きていた。
国交省は地下の安全性を検討する専門委員会を発足させて、年明けから議論に入るという。論議のポイントは地下利用の一元化だ。政府や自治体、民間がバラバラに持っている地盤や地層のデータを共有化する。
都営大江戸線は東京の一番深いところを走っている。再開発が進む渋谷では、私鉄、地下鉄が入り乱れ、地下深く巨大貯水槽ができ、川の付け替えまで行われていると聞く。宇都教授によると、「東京駅は地下水の上に浮いているような状態」なのだそうだ。