開発から1兆円が投じられた「夢の原子炉」もんじゅが22年間にたった250日運転しただけで今、幕を下ろされようとしている。今年(2016年)9月、突然「廃炉をふくめて抜本的見直しを行う」(菅官房長官)との政府方針が明らかになった。一方で、政府は新たな次世代高速炉の開発を打ち出す構えだ。もんじゅ開発を中止しながら、新しく開発を進めるのはなぜか。
もんじゅは、原発の発電後に出る使用済み核燃料を再利用する核燃料サイクルの実験炉で、使った以上の電力を生みだすとされた。しかし、トラブルが続出。この方針転換は9月に突如、地元福井県に告げられた。西川知事は「地元にまったく説明がないままで、政府の対応は無責任きわまりない」と不信感を露わにする。計画段階から地元の窓口になってきた元敦賀市議会議長の橋本昭三さんは「寝耳に水。ひとこともなく、不見識」と戸惑いの表情だ。
原型炉の失敗よそに実証炉とステップ上げる政府
次世代の原子炉開発は4段階に分かれる。実験炉「常陽」、原型炉「もんじゅ」ときたところで、これを廃炉にし、つぎの実証炉に進むと政府はいうのだ。
去年(2015年)11月、もんじゅ開発のあり方を問題視した原子力規制委員会は文部科学省に新しい事業者を半年以内に決めるように異例の勧告を行った。文科省はもんじゅ存続を前提に今年5月まで議論を進めていた。
政府の方針転換までに何があったかを取材すると、水面下の議論が明らかになった。
6月になっても文科省はもんじゅの新事業者を決められない中で、経済産業省と複数回の協議を行っていた。文科省は「新事業者については、国が負担の中心になることで電力会社やメーカーの協力を得られる」と存続を主張した。経産省は「原発再稼働で余裕のない電力会社が協力するとは考えにくい」「もんじゅを動かさなくても高速炉開発は可能で、別の投資をした方がよい」と、これまでにない提案を行った。
文科省も、コストを試算したところ、少なくとも5400億円かかることがわかった。「もんじゅにこだわると、原子力政策全体に影響しかねない」との声が複数の省庁からもあがり、もんじゅを廃炉しながら高速炉開発は堅持する方針へとつながった。
しかし、国の原子力委員長代理を務めた長崎大学の鈴木達治郎教授は「客観的議論ができる場を」と、十分な検証と様々な人が議論に参加する必要を力説する。
開発やめると行き場失う「使用済み核燃料」
NHK科学文化部の吉田賢治デスクは「政府が新たな開発にこだわるのは、これが核燃料サイクルの中核だからです。開発をやめると、使用済み核燃料の行き場がなくなります」という。使用済み核燃料の一部はすでに青森県六ケ所村に運び込まれている。青森県は、開発が破たんすれば「全国の原発に送り返す」方針だ。そうなったら、核燃料のゴミがあふれてしまう。原発が「トイレのないマンション」といわれる通りになる。
使用済み核燃料から出るプルトニウムも問題だ。原爆の原料にもなるため、管理に国際社会の目はきびしい。日本は昨年時点で48トン、原爆6000発分を持っている。高速炉開発を止めては説明ができなくなる。一般の原発で使う計画も進んでいない。危険な物質がどんどんたまる一方だ。
日仏の技術協力にも懸念、求められる多額の資金
新しい開発はうまくいくのか。吉田デスクはフランスの実証炉「アストリッド」開発で日仏が協力に合意したことを伝える。「しかし、取材すると、懸念が見えてきました」と指摘する。
三菱重工の子会社三菱FBRシステムズは国内唯一の高速炉設計の専門会社だが、日仏協力は免震装置や冷却技術など一部に限られ、重要部分に加われるかはまだわからない。
巨額の費用負担も求められる。6月に非公式に示されたフランス側の考え方では数十億ユーロ(数千億円)かかり、分担は半々という。フランスの原子力産業はいま「前代未聞の危機的状況」(フランスのシンクタンク代表)にあるため、そのぶん日本から多くの資金を引き出そうとする恐れがある。
「費用負担がどうなるのか。出資に見合う知見が得られるのか、政府は説明する必要があります」と、吉田デスクは指摘する。
伊東キャスター「来週には示されるという政府方針で納得のいく説明がされるのか、しっかり見ていきたい」
もちろんそうだが、新たな開発の進め方より前に原発自体をやめるべきかどうかという根本問題を忘れてはならない。開発の議論が原発の是非をケムに巻くようなことはないだろうな。そこもきちんと見きわめないといけない。