イラクやシリアなどで拠点を包囲されたかに見える過激派組織ISが、ヨーロッパやアジアの若者を遠隔操作してテロに走らせる動きを活発化させている。130人が犠牲になったパリ同時多発テロから1年、「クローズアップ現代+」は変容するISのリクルートネットワークの実態を追った。
最近目立つのは、未成年や女性が自分が住む地域で起こすテロだ。今年9月(2016年)、パリのノートルダム大聖堂のそばでガスボンベを爆発させようとして未遂に終わった事件では、5人が拘束されたが、若い女性を中心としたグループだった。
フランス警察幹部のシャンマルク・バユル氏が語る。「いつだれがテロリストになるか予測できない」「ISのリクルートネットワークは女性も対象にする」
両親の離婚で自殺繰り返す女性に「どうせ死ぬなら、警官を襲ってから撃たれろ」
ネットワークの背後に1人の男が浮かび上がった。ラシド・カシムというアルジェリア系フランス人で、フランスからシリアにわたりISの戦闘員になり、シリアからインターネットを通じて面識のないフランスの若者にテロを指示していた。「そこらへんのガキをさらって、テロリストにしてしまえ」の言葉が響く。
なぜ彼は見知らぬ女性までテロリストに仕立てられたのか。メッセージアプリ「テレグラム」が使われていた。個人情報保護のために開発され送信メッセージが自動的に消える。暗号化も可能だ。ISがそれまでつかってきたSNSの監視が強化されたため、カシムはこの秘密性アプリを使いだしたと見られる。
これを武器に自分の居場所を探しに悩む若者を誘う。パリ爆破未遂事件で捕まった1人、サラ・エルブエ(23)はキリスト教徒の家庭に育ったが、両親が離婚、新しい父とうまくいかず自殺行為を繰り返していた。そこへカシムが接近して「どうせ死ぬなら、警官を襲ってから撃たれろ」とそそのかしたらしい。 サラの弁護人ジュグラール氏は「自殺したいという思いにつけこんだ」と話す。事件現場でサラは「アラーは偉大なり」と叫んでいた。
キャスターの鎌倉千秋アナ「こうした大きな変化は、ヨーロッパだけではありません」
7月にバングラデシュ・ダッカで日本人7人をふくむ20人が犠牲になったテロの容疑者5人中3人は裕福な家庭の若者だった。バングラデシュでは行方をくらます若者が後を絶たず、100人近いうちの相当数がISに走ったのではないかといわれる。
ISのリクルート映像に登場して、「さらなる攻撃」を呼びかけたタミド・ラーマン・シャフィ(30)は政府高官の父を持つ経済的に恵まれた家庭で育ち、大学時代はテレビの歌番組にも出演した。宗教熱心でもないエリート青年だったが、大学を卒業して大手通信会社で働いていた時に恋人と破局し、自暴自棄になった。そんなときにISに誘われシリアに渡った模様だ。
地元のテレビジャーナリスト、ザヤダル・ピントゥーさんは「自分の問題で不安定な若者は善悪の区別がつきません。誘われるとあちらへ行ってしまいます」と語る。
フランスだけでも要注意の若者1万1000人
日本エネルギー経済研究所の保阪修司・研究理事は「ISはツイッターなどで反応した人に個別にアプローチする」と注意を呼びかける。監視対象の若者はフランスだけでも1万1000人いるという。防衛大の宮坂直史教授は「周りの人物にも注意しなければならず、1万1000人の捜査員ですむ話ではない。監視しきれない」と話す。
テロに対する捜査当局にはさまざまな課題がある。ユーロポール(ヨーロッパ刑事警察機構)は新たにテロ対策センターを発足させたが、国家間の情報共有はまだ十分ではない。センター長のマヌエル・ナバレテセンター氏は「情報はどの国も強力に守り、秘密が少なくない。自由に動き回るテロリストに対して、EU全体で情報をつかまなければいけない」と強調する。
保阪理事は「変化にまず気づくのは周りの人。若者に生きがいを与えることが重要です。生まれつきのテロリストはいない」という。
宮坂教授「(組織から抜けた若者への)リハビリも重要です」
鎌倉「社会が若者をどう受け入れるか考えないといけませんね」
それはわかっているのだが、危険が世界中に分散している。